指が鳴る仕組みと同じくらいに、注目されていたのが関節に与える影響です。
昔から「そんなにポキポキ鳴らしていると、年を取ったとき関節炎になるよ」と言われることが多く、おばあちゃんの知恵袋的な通説として広く浸透していました。
ところが、これを真剣に検証した研究があります。
カリフォルニアに住む内科医のドナルド・L・アンガー博士は、なんと60年ものあいだ自分の左手の指だけを毎日鳴らし続け、右手は一切鳴らさない状態で生活したのです。
もし指ポキポキが本当に関節炎を引き起こすなら、左手だけが痛みや変形を起こすはず。
数万回にもおよぶ独自の実験を終えてみると、結論は「両手の間に目立った違いはない」というものでした。
この研究は後にイグノーベル賞を受賞し、世界中のメディアを賑わせました。

さらに、他の学術研究でも「指を鳴らす習慣と関節炎リスクに顕著な関連は認められない」と報告されたケースがいくつかあります。
1970年代に発表された研究や、1990年に発表された追跡調査では、指ポキポキを日常的にするグループとしないグループを比較してみても、将来的な関節トラブルに大差はなかったという結果が得られました。
もちろん、まったく無害とは言い切れない面もあります。
無理な力を使って関節を曲げすぎたり、衝撃を加えすぎたりすれば、靭帯や腱の損傷リスクを高める可能性があります。
また、音が鳴るタイミングで痛みを感じるようなら、すでに関節や周辺組織に別の問題が起きているかもしれません。
要は適度であれば大きなリスクにはなりづらいが、過度な力や繰り返しによって別の怪我を誘発しかねない、というバランスの問題なのです。
それではなぜ、こんなにも指ポキポキと関節炎説が広まっていたのでしょうか。
それは、指から音が鳴るのを目の前で見ると、どうしても骨がすり減っているかのようなイメージを持ってしまうことや、痛みを伴う場合は実際に軽度の捻挫や炎症を同時に起こしている可能性があるためだったと考えられます。