通常、病気の原因は限られています。
複数ある場合でも、互いに矛盾しないことが求められます。
例えば酷い下痢になったとき。
原因1が「牛乳を飲んだせい」で原因2が「牛乳を飲まなかったせい」
であってはダメです。
原因1と2が互いに互いを否定するからです。
そんなのは当たり前だと思われるかもしれませんが、まさにそこが落とし穴でした。
発見の契機となったのは、過敏性腸症候群を起こした患者から集められた大量の糞便でした。
研究者がこれら糞便を詳細に分析した結果、サルモネラ菌をはじめとした病原体が多数、確認されたのです。
ただ、やはり全てではありませんでした。
何人かの患者の糞便は非常にクリーンであり、病原体とは無縁だったのです。
糞便の含まれる菌の有無を病気の原因とするには、クリーンな糞便をもった患者の存在はあってはなりません。原因が否定されてしまいます。
しかしベルギーの腸神経免疫相互作用研究所のハビエル・アギレラ-リザラガ氏は、この単純な論理パズルこそが、原因不明とされている最大の要因であると考えました。
そして、2つを(病原体を含む糞便とクリーンな糞便)合わせて、どちらも原因として失わないで済む新しい仮説を考え付きました。
全てはポンコツ免疫の誤った学習のせいだった

免疫は優れたシステムですが、時には役に立たなくなります。
新型コロナウイルスにおいても免疫の過剰反応が重症化の原因とされている事例が有名。
これは本来私たちを守るべき免疫が誤作動を起こしてしまっている状態と言えるでしょう。
アギレラ‐リザラガ氏はこの免疫の誤作動が「過敏性腸症候群」でも起きているのではないか? と仮説を立てました。
そしてその仮説を証明するために、食中毒を起こすバクテリアをマウスに感染させ、同時に卵に含まれるタンパク質(オボアルブミン)を食べさせました。