金融業界で進む「脱ノルマ」

 かつては「ノルマ証券」「最強の営業部隊」といわれた野村証券だが、現在は転換期を迎えているという。

「対面や電話での営業がメインだった時代は、各支店に週や日ごとに『この商品をこれだけ売れ』という目標が降りてきて、それが営業担当者に割り振られるというかたちで、その商品が顧客にとって損になるか得になるのかは関係なく、とにかく顧客に売り込むというのが営業の仕事だった。インターネット証券の普及により、営業担当者が特に50代以下の顧客と直接接点を持つことが難しくなり、加えて顧客側もネット取引に慣れて“自分で調べて自分で判断して取引を行う”という傾向が強くなり、顧客側の知識が増えて賢くなったことで、証券会社側も営業スタイルを大きく見直さざるを得なくなった。また、金融商品も投資手法も一昔前と比べてはるかに複雑化かつ多様化しており、何かを売り込むという手法はもう通用しなくなり、顧客の資産状況などを把握してトータルで顧客の資産を増やしていく、リスクをヘッジしていくという伴走型のコンサルテーション型営業が求められるようになった」(同)

 前出・椿氏はいう。

「野村証券が証券業界のなかで突出してノルマに厳しいのかどうかは、はっきりとしたことはわかりませんが、野村証券の方々のお話を聞く限り、ノルマの達成という点に関して銀行よりもはるかに厳しいと感じます。もちろん銀行でも上席から厳しい指導を受けることはありますが、野村証券では、より厳しく詰められるという印象はあります。

 野村証券に限らず、証券業界全体が大きく変わりつつあります。かつては顧客にどれだけ多くの商品を売って手数料を稼ぐかという点に重きが置かれていましたが、現在では新規取引ではなく既存の顧客の資産=ストックをどれだけ増やし、それによってどれだけ手数料収入を増やせるのかという点が社員の評価軸としても重要視されるようになっています」

 実際に金融業界では「脱ノルマ」の動きが広まっている。大和証券は17年、営業担当者ごとにノルマを設定する方式を廃止し、顧客からの評価に基づき営業担当者を評価するかたちを導入。野村証券も同時期頃から、販売手数料の目標を営業担当者に課すことを廃止し、顧客の預かり資産の増減や新規資金の獲得額などに比重を置く評価制度に移行。みずほ証券は23年度から、部支店・営業担当者の収益目標を撤廃する。主に顧客からの評価に基づいて部支店・営業担当者個人の成果を評価するかたちに変更している。