野村証券の元社員が、70代女性に架空の投資話を持ち掛け現金1000万円を騙し取ったとして詐欺の疑いで逮捕された。同社といえば昨年、元社員が80代の顧客の自宅で食事をもちかけ、食べ物に睡眠作用のある薬物を混入させて放火したうえで現金約1787万円を奪い放火したとして、強盗殺人未遂と現住建造物等放火の罪で起訴された事件が記憶に新しいが、なぜ同社社員による不祥事がたて続けに起きているのか。業界関係者は「モラル低下という一言では片づけられない根深い問題がある」と指摘する。

 逮捕された張湧太容疑者は、野村証券の社員が加入できる積立金制度があり、資金を預けてくれれば年2%の利息をつけて返せる」などと70代女性に虚偽の説明を行い、自身の口座に1000万円を振り込ませたという。容疑者は昨年6月に退職しているが、事件が起きた同年1月時点では本店勤務で営業担当として顧客に資産管理のアドバイスなどをしていた。

 事件を受けて同社の飯山俊康副社長は6日、報道陣の取材に応じて「対応策を着実に実行することで、安心して取引できる環境を整えていきたい」と発言。同日付リリースでは「お客様に安心して当社のサービスをご利用いただくために、厳格かつ実効性を高めた対応策を定め、実施しております。今後もこうした対応策の実施を着実に継続することで、お客様に真に安心して当社のサービスをご利用いただけるよう、全力で信頼回復に努めてまいります」としている。

 野村証券では昨年、前述のとおり広島市内の支店に勤務していた社員が顧客宅に放火し、強盗殺人未遂と現住建造物等放火の容疑で逮捕・起訴されるという事件が発生。これ以外にも、2021年に日本国債の先物取引で社員が相場操縦をしたとして昨年10月、金融庁から2176万円の課徴金納付命令を受けた。22年には岡山支店に所属していた社員2人が高齢顧客などから総額約9700万円を騙し取っていたことが発覚している。

横領などの事案は毎年、数十件単位で発生

 野村証券で社員の不祥事が相次いでいる背景には何があるのか。元銀行員で金融ライターの椿慧理氏はいう。

「ここ最近、野村証券の問題や三菱UFJ銀行の貸金庫詐取事件などセンセーショナルな出来事がたて続けに起きているため、金融機関社員による不正が増えているという印象がありますが、業界全体でみれば横領などの事案は毎年、数十件単位で発生しています。銀行も証券会社も従業員のすぐそばにお金があるというある意味で特殊な環境なので、どれだけコンプライアンス教育を徹底していても、違法行為に手を染めてしまう人というのは出てしまいやすいという面はあるかもしれません。

 大手証券会社社員はいう。

「今回の詐欺事件は、特にコンプライアンスが徹底されているべき本店勤務の社員が起こしたという点で深刻かつインパクトが大きい。本部の目が行き届きにくい地方の支店で意識が低い社員が問題を起こした、という言い逃れができない。かつての野村はノルマがキツい一方、高い成績をあげれば20~30代でも年収2000万円に届くことも珍しくないほど高い給料を得られ、それなりに報いがあった。だが、現在ではそれなりにノルマがキツいままで、以前ほどは高い報酬というのは見込めなくなった。そうしたなかで自暴自棄的な振る舞いに出る社員が生まれやすいのかもしれない。とはいえ、野村グループには国内外に1万人以上の社員がいるため、会社としていくらルール順守や管理を徹底しても、犯罪行為に走るような人間が一定数出てしまうのは仕方がない」