がんは肺へと転移し、もはや治療は不可能で、余命いくばくもない状態だと医師に宣告されます。
ジェームズは自らの人生の旅が終わることを受け入れたくなかったのでしょう。
彼は当時まだほとんど認知されていなかったある革新的な技術に望みを託そうと考えました。
それが「人体冷凍保存」です。
冷凍保存された世界初の人物となる
ジェームズが冷凍保存について調べ始めた1960年代当時、人体冷凍保存の技術は一部の科学者たちによって注目され、研究が始められた頃でした。
死期が近づく中、ジェームズはアメリカ冷凍保存協会(ACS)の会長ロバート・ネルソンとコンタクトを取ります。
ネルソンはジェームズが求める「寿命延長の技術」を提供できると伝えました。
そして1967年1月12日の午後1時15分、ジェームズは「なんだか気分が良くなってきた」とのつぶやきを最後に、静かに息を引き取ります。
冷凍保存協会の医師たちは直ちに行動を開始しました。
彼の体が蘇生不能になってしまう前に、冷凍保存のための準備を完了させる必要があったからです。
医師たちはジェームズに人工呼吸器を装着し、脳への酸素供給を維持しました。
続いて、血液は冷凍後に解凍すると膨張によって血管を傷つける可能性があるため、血液の代わりにジメチルスルホキシド(15%)と体液の組成に近いリンゲル液(85%)を混ぜた溶液を静脈に注入しました。
これらの準備が終わると、ジェームズの体は金属製の円筒形カプセルに収められ、葬儀場から冷凍保存施設へと運ばれました。
こうして彼は人体冷凍保存された世界初の人物となったのです。

ただ、その後のジェームズの眠りは安らかなものではなく、頻繁に移動が繰り返されています。
アリゾナ州の施設で2年間保管されたのち、1969年にカリフォルニア州の冷凍保存施設に移されました。