同国の政治消息筋によると、ネハンマー首相に国民党内から圧力がかったからではないかという。どのような圧力かというと、自由党との連立を願う経済界からの圧力だ。社民党の経済政策を恐れる経済界は、企業への課税などを拒否する自由党のほうがやり易いという判断が働いたわけだ。
キックル党首の自由党が第1党となった直後、ファン・デア・ベレン大統領は極右政党主導の政権誕生を阻止するため、第2党の国民党に連立政権の組閣を要請した経緯がある。そのファン・デア・ベレン大統領は5日、国民党主導の連立交渉が暗礁に乗り上げたことを受け、第1党の自由党のキックル党首を大統領府に招き、政権組閣要請をする意向を明らかにしたばかりだ。大統領はその理由を「国民党内で自由党への抵抗感が少なくなったからだ」と説明している。要するに、選挙戦で自由党との連立は絶対あり得ないと主張してきたネハンマー首相や国民党だったが、「キックル党首の自由党と連立を組むほうが容易い」という現実が国民党内で支配的になってきたというのだ。
国民党は明らかに立場を変えたのだ。オーストリア国営放送は「国民党、自由党へのスタンスを180度変えた」と報じたのは当然だ。ただし、国民党だけではない。自由党主導の政権を拒否し続けてきた「緑の党」出身のファン・デア・ベレン大統領も立場を変えざるを得なくなった。すなわち、キックル党首に連立交渉を委ねざるを得なくなったからだ。
ネハンマー首相は社民党との交渉決裂を決定した直後、国民党と首相のポストから辞任すると表明したのは、同首相が選挙戦中から「国民党は絶対自由党と政権を組まない」と宣言してきたからだ。その立場上、首相は責任を取ったわけだ。
社民党との連立交渉が決裂すれば、残されたシナリオは自由党と国民党の連立政権か、議会を解散して選挙を実施するかの2通りしかない。後者は国民党としては得票率を更に失う結果となる可能性が高い。ネハンマー首相は自由党との連立交渉しかないことを知って、2つのポストの辞任を決意したわけだろう。