「オーストリアの政界は一寸先は闇」と少々悲観的に書いたが、その直後、ネハンマー首相が4日、社会民主党との連立交渉から離脱を表明すると共に、国民党党首と連邦首相のポストから辞任する意向を明らかにした。驚いたのは連立交渉相手の社民党だけではない。メディアも国民も腰を抜かしてしまったのだ。何があったのか。以下、その背景を探ってみた。

「人民首相」就任の日を夢見るキックル党首 2025年01月5日、オーストリア「自由党」公式サイトから

先ず、ネハンマー首相が社民党との連立交渉を断念したのはある意味で理解できる。経済界を支持基盤とする保守派政党「国民党」党首として、金持ちや利益を上げた大企業への課税などを主張するバブラー社民党党首の主張を飲み込むことはできないからだ。連立交渉を重ねたとしても妥協は困難と判断したネハンマー首相は交渉を諦めたわけだ。

もちろん、ネハンマー首相は社民党の経済政策を知っているから、今更政策の相違から連立交渉を諦めた、というのでは説得力が乏しい。国民党が社民党、そしてリベラル派政党「ネオス」との3党連立交渉に乗り出した最大の理由は昨年9月29日の国民議会選挙で第1党となった極右政党「自由党」の政権発足を阻止するためだった。だから第2党の国民党が主導して連立交渉を重ねてきたのだ。しかし、「ネオス」のベアテ・マインル=ライジンガー党首が3日午前、国民党と社民党との連立交渉から離脱すると表明したのだ。同党首は3日、社民党の政策についていけないことから交渉を離脱したと示唆している。残されたのは国民党と社民党2党の連立政権発足以外に他のシナリオが無くなった。

ネハンマー首相は4日、バブラー党首と会談を再開したが、社民党左派からの圧力を受けるバブラー党首は譲歩をする姿勢を見せない。そこで、ネハンマー首相は社民党との交渉を断念するだけではなく、国民党党首、首相のポストをも辞任する意向を固めたわけだ。