本研究のもう一つの重要な示唆は、地球外生命を探す際の視点です。

もし初期生命が硫黄(S)や金属イオンを豊富に活用していたのなら、火星やエンケラダス、エウロパなど硫黄に富む天体でも、似たようなプロセスで生命が誕生しているかもしれません。

芳香族アミノ酸が思ったより早くから使われていたなら、地球外でもアロマチック化合物を利用する生命の痕跡を手がかりに探索が進む可能性があります。

もしかしたら絶滅したコードの起源は、硫黄や金属に富んだ惑星にいた生物のものだった可能性もあるのです。

逆を言えば、地球生命の遺伝コードが長い時間をかけて他の星に漂着して繁栄した場合、その星に元々存在した生命の遺伝コードと統一を起こし、地球と似た生物の進化が起こる可能性もあります。

現代の宇宙生物学は、古い地球環境の再現実験や隕石・サンプルリターン探査などと組み合わせて、「初期生命がどうやって分子を利用したか」を推定することで、異星での生命シナリオを描こうとしています。

私たちの遺伝情報の源流を、さらに深く探求することで、生命がいかにして複雑な設計図を手に入れ、どのように地球上を席巻していったのか。

その全貌を解き明かす日が、少しずつ近づいていると言えそうです。

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元論文

Order of amino acid recruitment into the genetic code resolved by last universal common ancestor’s protein domains
https://doi.org/10.1073/pnas.2410311121

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。