加えて、クモ1匹が分泌できる糸の量はごくわずかであり、1匹ずつクモ糸を集めることは工業生産的に現実的ではありませんでした。
そんな中で科学者たちは「これだ!」という名案を思いつきます。
「家畜として安定して飼育できるヤギにクモ糸を大量に作ってもらおう」と考えたのです。
その方法がヤギにクモの遺伝子を組み込むことで、お乳と一緒にクモ糸を生産させるというものでした。
ヤギがクモ糸を大量生産するように!
そこで科学者チームはまず、ジョロウグモの一種(学名:Trichonephila inaurata)からドラグラインシルク(dragline silk:クモがぶら下がるときに使う強靭な糸)を生産する遺伝子を取り出しました。
それを試験管内でヤギの乳腺のDNAに組み込み、その遺伝子操作されたDNAを持つ受精卵をヤギの代理母に移植します。
その結果、生まれたメスのヤギは成長後に見事、クモ糸のシルクタンパク質を含むミルクを分泌するようになったのです。
それぞれのヤギのDNAに占めるクモ遺伝子の割合は7万分の1程度ですが、それでもヤギはクモ糸とまったく同じシルクを作り出すことができました。
具体的には、ヤギのミルクを搾乳した後、その中からクモ糸を構成しているシルクタンパク質の繊維を慎重に抽出し、リールに巻いていきます。
これにより1時間で91メートルものクモ糸を生産することに成功しました。
ヤギが作り出したクモ糸は新たに「バイオスティール(BioSteel)」と命名されています。
その名の通り、バイオスティールは強靭な特性を備えており、同重量の鋼鉄と比較して7~10倍の強度と、元の長さの最大20倍まで伸びても強度を失わない特性を持っていました。
さらに極端な温度にも強く、−20℃の低温から330℃の高温にさらされても特性を損なわなかったのです。
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