物語の最後では、栄光を手にしたトランプ氏が自身の台頭を助けたコーンを邪険に扱うが、最終的にトランプ氏は病魔に侵されたコーンをフロリダ州で出来たばかりの邸宅に招待する。

筆者が感じた映画の隠れたテーマである「人情家」としてのトランプ氏がここでも顔を覗かせる。トランプ氏は訪れたコーンの車いすを自ら押しながら新居を案内し、コーンのために開かれた晩餐会では感謝を伝え、偽のダイヤモンドでできたカフスをプレゼントし、トランプ氏なりの誠心誠意でコーンの貢献に報いた。

これらの描写がどこまで本当で、どこまでが創作なのかは検証の余地があるものの、晩年のコーンがトランプ氏の邸宅に行ったことは事実であるようだ。当時のコーンはエイズに罹っているとされており、当時は世間からのエイズ患者への偏見が特に厳しかった。劇中ではトランプ氏自身もエイズ患者への差別意識が多少なり持ち合わせていたと示唆される。しかし、トランプ氏は患者に触れるだけではエイズに罹らないという正確な情報を医師から入手し、エイズに罹ったことにより差別の対象となっていたコーンをわざわざ自宅に招いた。

末期がんとされていた患者をニューヨークからフロリダに向かわせたことは、トランプ氏の非人道性を象徴する一幕だと指摘する人々もいるかもしれない。しかし当時のエイズを取り巻く社会環境を考えたとき、トランプ氏の「人情」が伺える。

トランプ氏の知られざる一面を描く

映画「アプレンティス」はトランプ氏の知られざる一面と知られる一面も合わせて描いている。それは一見すると矛盾のようにも見えるが、本来人間は複雑なものではないだろうか。トランプ氏の人間としての複雑性、そして今の政治スタイルの起源、そして「人情家」としての一面がどのようなものであるか知りたい読者には是非見てほしい。