トランプ氏がコーンとの師弟関係の中で、現在の政治スタイルに直結する教訓を得たことを映画は示唆している。まず、コーン氏はトランプ氏に対して、敵だと思う相手は容赦なく攻撃し、自分の非は決して認めず、常に勝利を主張することを教え込んだ。この3つのルールは、2020年米国大統領選挙に負けた後のトランプ氏の言動そのままである。トランプ氏は自身が選挙に勝ったことを認めない共和党議員に対しては、刺客を送り、多くの反トランプ候補を予備選の段階で敗北させている。また、トランプ氏は5年前の選挙で正々堂々と負けたことは未だに認めていない。コーンの教えをトランプ氏は忠実に守っているようである。
ロイ・コーン(ジェレミー・ストロング)とトランプ
「人情家」から「ドナルド・トランプ」にまた、テレビ番組と映画とでは、映し出されるトランプ氏は全く別人である。前者で描かれるトランプ氏は成功者であり、能力が無い者は容赦なく切り捨てる冷徹な人物である。しかし、特に映画「アプレンティス」の序盤で登場するトランプ氏は、無力ではあるが、「人情家」として描かれている。
映画の前半部分では、ビジネスの世界では若造であるトランプ氏が、有力者から相手にされず、父の会社が貸し出している物件に住む住人から家賃徴収を行うという、下積みをやらされる。また、今では潔癖症であり、人との接触を好まないトランプ氏が兄フレッド・トランプ・ジュニアと大きなハグをし、家業を継がなかったことにより父に罵倒される兄を庇うような場面もでてくる。不幸なことに、フレッドはアルコール依存症の影響もあり、若くして亡くなることになるが、兄の死の直後に涙を流し、動揺を隠せないトランプ氏の姿が出てくる。この「涙」の場面に「人情家」としてのトランプ氏が最も印象強く映し出されるが、兄の死をきっかけに傲慢で、冷徹で、傍若無人な「ドナルド・トランプ」が完成していくという、映画の副題にもつながる展開に物語は進んでいく。