「プラザ合意40年」に関する連載ということもあって、異次元緩和に関する黒田氏の発言は全体の半分程度です。現在は政策研究大学院特任教授です。要旨は以下の通りです。
物価上昇率2%目標は未達が続いた。長らく続いたデフレで物価や賃金は上がらなという「ソーシャル・ノルム(社会通念)が根付いた影響のせいだ。 ウクライナ戦争(22年2月~)で原油、農産物などの一次産品の暴騰と円安進行によって輸入物価が急上昇し、物価上昇率は3%を超えた。 行き過ぎはマイナスだが、日本経済にとって円高より円安がプラスと思っている。企業は円建て輸出価格を引き上げて企業収益を増やし、海外子会社の収益を現地通貨(ドル)から円に換算することで利益が拡大する。企業は増えた利益を賃上げで還元したり、設備投資をするとよい。
これらの指摘に納得できない人は多いでしょう。
異次元金融緩和という大胆な政策をとれば、社会通念が変わり、物価が上がり始めると、黒田氏は就任当初に発言してではないか。 国内の通貨供給量を増やせば、物価が上がる(貨幣数量説)を当初、唱えていました。物価上昇が始まったのはウクライナ戦争、一次産品の値上がり、円安という外的要因でした。国内だけをみていた異次元緩和策は大筋で効かなかったと、黒田氏は認めることになります。 円高より円安がプラスということも就任時には語っていません。異次元金融緩和は円安を意図していないと、日銀は弁明していました。つまり「意図していない円安=インフレ輸入」が物価を押し上げていたわけで、「通貨供給量2倍、物価上昇率2%、2年」は目標と手段の設定が間違っていたことになります。
さらに「賃金があがれば、企業は価格に転嫁するから物価が上がる。賃上げしても物価上昇で実質賃金が目減りする。望ましい賃上げは、企業の生産性の向上の結果であることだ。現在はコスト・プッシュ型の物価上昇になっている。日本として取り組むべきは実体経済をよくすることだ」と、野口悠紀雄氏が主張し、政府、日銀が指摘する「物価と賃金上昇の好循環」の間違いを指摘しています。