そこで研究チームは2022年に、彼らがコンクリートの上でも目立つ赤色をしている理由について調査を行ったのです。
赤い体は「強い紫外線」から身を守るためだった
アナタカラダニは東京ではだいたい春先の3月なかばに発生し、コンクリート壁など日当たりの良い人造構造物に生息し、梅雨の頃に卵を産んで、次の春まで卵で休眠します。
そのため、カベアナタカラダニは春先の強い紫外線にさらされやすい環境で暮らしています。
研究チームはこの点が、彼らの赤い体色に関連しているのではないかと考えました。
紫外線が当たると細胞に有害な活性酸素が発生します。
これは私たちにとっても有害なもので、シミ、ソバカスや皮膚がんの原因になったりします。
ですから、紫外線にさらされやすいカベアナタカラダニも活性酸素の生成による酸化ストレスに対処する必要性が出てきます。
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抗酸化作用のある物質として、自然界で有名なのがカロテノイドです。
これは野菜のトマトやニンジン、生物ではフラミンゴやロブスターが派手な赤や橙色をしている原因の色素で、彼らの酸化ストレスの防御に重要な役割を持っています。
同じダニ類で、植物の葉上で強い日光にさらされて生活する「ミカンハダニ(学名:Panonychus citri)」も、カロテノイドの一種「アスタキサンチン」を合成・蓄積することで、酸化ストレスから身を守っていることが知られています。
そこで研究チームは、カベアナタカラダニにも同様のことが起こっているのではないかと考え、色素中のカロテノイド組成を測定してみました。
その結果、カベアナタカラダニのド派手な赤い色素(カロテノイド)は、抗酸化作用を持つアスタキサンチン(60%)と3-ヒドロキシエキネノン(30%)、少量のβ-カロテン(2%)から構成されていることが判明したのです。