誰それ?と言われそうです。日本を代表する経営学者で世界にも通じる数少ない方でした。正直申し上げると私は野中氏の著書は読んでいません。雑誌の特集や記事などで野中氏の功績や考えは読んでいますが、氏のアウトプットの難易度が高いのです。最も著名な著書である「失敗の本質」(野中氏を含む6名の共著)ぐらいは手に取ってみようと思います。これは日本軍が失敗したことを追求した名著とされます。これをバブル崩壊後の日本の状況と重ね合わせることで経営的視点から分析を試みるテーマの記事は多く掲載されてきました。

野中郁次郎氏 Wikipediaより

日経の野中氏の編集委員記事のくだりに「考案した経営メソッド『SECI(セキ)モデル』も、知らない企業経営者はもはやいまい」とあります。そんなことはありません。私は知りません。多分、知っている経営者は少ないと思います。本好きの私でも手が伸びないのは難解だからでしょう。ある意味、氏の高度な知的レベルを我々凡人にもう少しわかりやすく落とし込んでくれればきっと野中氏の名声はもっと違ったものになっていたことでしょう。

ところで私は今「教育経済学」なる分野の本を読んでいます。教育と経済学をくっつけるというのも斬新なのですが、人的資本という発想を取り入れています。ところがこの野中氏は人的資本という発想には違和感があるとし、人間とは「未来志向で意味をつくる動的主体であり、他者との関係性のなかで人になる。つまり、資本を生み出す存在が人間なのだ」(日経)とあります。よく読まないとわかりにくいのですが、経済学的アプローチで取り込む人的資本という発想はそもそもが間違っているとも読めそうです。このあたりになると哲学的ともいえ、様々な考えと意見が出そうですが、野中氏が経営界に既存の発想にとらわれず、グサッと切り込みを入れた点は素晴らしい功績であったと思います。

後記 建築中の海上の浮型事務所がほぼ完成し、フェリーに乗り北に180キロほど行った田舎町の工場のヤードに行きました。距離は大したことなくてもフェリーの待ち時間や移動時間を含めると朝5時に家を出て戻りが夕方6時。打ち合わせは1時間だけ。そして今はそれをバンクーバーまで運ぶ牽引船の契約、保険契約、更に専門家による運航計画書の作成ととにかく事務手続きに翻弄されています。現場では電気と配管の工事の作業が急ピッチで進みます。なにせほとんど未経験の分野なので「へぇ」の連続。ですがこれを面倒くさいとは一度も思わないところが大事なんだと思います。ドンとこい、です。