たとえば、製造業での基幹業務システムの導入を考えてみましょう。経営層は、リアルタイムで全社の売上や利益、在庫を把握し、最適化することを望みます。一方、工場の現場では「需要と連携した精緻な生産計画の作成」や「受注から製造、出荷までの進捗が一目でわかる」といった仕事の効率化や自動化を望みます。

このように、異なる階層や部門間での様々な望みを一気に叶えるために、多くの部門が関与する全社ITプロジェクトを立ち上げることになるのです。

ITプロジェクトの失敗率は70%という現実

JUAS企業IT動向調査報告書2023によると、ITプロジェクトのQCD、すなわち品質の満足度(Quality)、予算遵守(Cost)、スケジュール遵守(Delivery)の状況を調査した結果、おおよそ70%のプロジェクトがうまく行っていないということが分かりました。

・品質: 70~85%のシステムが品質に満足していない ・予算: 60~85%のプロジェクトが予算を超過 ・スケジュール: 70~85%のプロジェクトがスケジュール遅延

調査報告書にはこれらの原因は「計画時の考慮不足」、「想定以上の現行業務・システムの複雑さ」、「仕様変更の多発」である旨が記載されています。しかし、これらの原因が発生する背景には、「複数部門が関与していること」という、大企業の根底的な要因が存在すると考えられます。

全社ITプロジェクトに立ちはだかる4つの対立構造

全社ITプロジェクトは、基幹業務システムの導入やグループ共通システムの導入といった種類がありますが、いずれのケースも、複数の部門が関与するがために発生するどうしても避けられない対立を抱えています。ここでは主に4つの対立構造を挙げてみます。

(1)経営と現場の対立 経営層は、業務全体の効率化やデータ活用を重視する一方、現場は自部門の業務の効率化を優先します。

(2) 現場と現場の対立 部門ごとにプロジェクトに対する期待や実現したい事が異なるため、システム構築する際の優先順位で争いが起こります。たとえば、営業部門は顧客データの迅速な共有を求める一方、物流部門は出荷管理の自動化を重視するなど、互いのニーズが競合することがあります。