こうして酸素が徐々に失われていったことで、今度は動植物たちが次々と死滅していきました。

最初に植物の花粉を媒介する昆虫や鳥が死んだことで植物が繁殖しなくなり、植物を餌とする動物たちも姿を消していきます。

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土壌の湿度を測定するマーク・ネルソン/ Credit: en.wikipedia

バイオスフィアに導入された大半の動植物が死滅する一方で、繁殖したものもいました。

ゴキブリです。

ゴキブリは落ち葉を食べる分解者として熱帯雨林に持ち込まれていたのですが、あらゆる餌や環境に適応できる彼らは、他の動植物が死んでいくのを尻目に、一人勝ちの状態になっていました。

(ほんとゴキブリの生命力は恐ろしいですね… )

実験の後半にもなると、クルーたちは繁殖したゴキブリや雑草の中で生きなければならなかったという。

ユートピアはもはや地獄絵図に変わっていました。

さらにここへ追い打ちをかけるように、新たな問題が彼らを襲います。

それがメンタルの崩壊です。

不和が発生し「2つの派閥」に分断、8名が迎えた最期とは?

食糧も満足に得られず、酸素が薄くなるにつれ、クルーたちの士気が低下し、精神的な疲労が目立ち始めました。

ネルソンは「無駄なエネルギーを使う余裕がないので、私たちはまるでスローモーションのダンスをしているように緩慢に動いていた」と話します。

さらに地獄だったのは、このプロジェクトが当時からメディアの注目を受けていたため、実験を一目見ようと、多くの人々が毎日のように押し寄せていたことです。

施設は太陽光を入れるために全面ガラス張りでしたから、クルーたちは常に人目にさらされていました。

クルーの一人であるリンダ・リーはこう話しています。

「毎日、観光客や学校の子供たちを乗せたバスがやって来てはガラスを叩いたり、やせ細った私たちの写真を撮っていました。

一度、動物行動学者のジェーン・グドール(チンパンジー研究で有名)が訪れて、まるで私たちを囚われた霊長類のように観察していました。