初めの数カ月間は食糧も十分であり、各エリアの生態系も見事に循環し、小さな地球は8名の男女にとってまさにユートピアでした。
ところがバイオスフィア2に異変が生じるのにそう時間はかかりませんでした。
まず最初に浮上したのは食糧の問題です。
農地では作物の成長が遅く、手間もかかりすぎました。例えば、コーヒーの木は2週間かけてようやく1杯分の豆が実る程度だったという。
主食も安定して得られなくなり、彼らはビーツとサツマイモばかりを食べて、絶え間ない飢えを感じるようになりました。
彼らの体重は実験前と比較して平均16%も減少することになります。
しかし最も重大な異変はバイオスフィア内の酸素濃度が急激に低下し始めたことでした。
実験開始から半年ほどで酸素濃度が徐々に下がり始め、呼吸がしづらくなってきたのです。
地球の酸素濃度は約21%ですが、バイオスフィアでは最終的に14.2%にまで落ちました。
これは高度4000メートルの酸素濃度に相当し、チベット高原にいるみたいなものです。
クルーの一人マーク・ネルソンはのちに「常に登山しているような感覚で、長い言葉を話すときには必要以上に息継ぎが必要だった」と振り返っています。
一体なぜ酸素が減っていってしまったのか?
その原因は地下コンクリートにありました。
バイオスフィア2の基盤は先ほど言ったようにコンクリートでできています。
ところがコンクリートには自然の土壌とは違い、空気中の二酸化炭素を吸って炭酸カルシウムに変えてしまう性質があったのです。
二酸化炭素がなくなると植物が光合成に必要な原料を失うため、酸素が作り出せなくなります。
地球全体だとコンクリートの面積はほんのちょびっとなので問題ありませんが、バイオスフィア2の基盤はほとんどコンクリです。