介護が大変な場合の基本的な対策は、低所得でも施設介護を可能にするなどの介護制度の充実であり、安楽死ではありません。現実はそんなに甘くないとの反論があるかもしれません。財源がないため、今以上の介護制度の充実は難しいのかもしれません。しかし、それならば財源確保のために消費税を更に上げるなどを検討するべきです。基本的には、お金で解決できる話なのです。綺麗事と批判されるかもしれませんが、お金がないから安楽死を推進するという考え方は容認できません。

一方、安楽死を希望する人が抱える耐えがたい苦痛、人間としての尊厳の喪失といった問題は、お金では解決できません。このような問題では、社会的弱者とか強者とか、高所得とか低所得とか、あまり関係がありません。欧米で安楽死を希望する人は、高学歴で裕福な人が多いとされています。

この映画は、視聴した人に、「介護が大変だから安楽死が必要」という不適切な印象を与えてしまいます。そのように安楽死をとらえる人が増加してしまいますと、安楽死法の成立がより困難となってきます。なぜならば、安楽死反対派に絶好の反対の根拠を与えてしまうからです。つまり、「介護施設に入所することのできない社会的弱者が安楽死に誘導されてしまう」という彼らの主張が説得力を持ってしまうのです。

7.映画「世界一キライなあなたに」(2016年、イギリス)

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交通事故で重度の脊髄損傷を負って四肢麻痺となった青年がスイスに行き安楽死を遂げる話です。イギリスでは安楽死が合法化されていないため、安楽死するためにはスイスまで行く必要がありました。青年は親を説得するために、安楽死までの猶予期間として6か月間を設定しました。青年は、この期間に介護のために雇われた若い女性と恋に落ちました。しかし、それでも青年の安楽死の決意は変わりませんでした。

青年は裕福でした。介護が家族の負担になっていることもありませんでした。しかし、身体的苦痛に加えて、人間としての尊厳が失われたことに青年は耐えられませんでした。そのため、安楽死を選択しました。そして恋も、その決意を変えることはできませんでした。青年が抱えていた苦悩は、スピリチュアルペインとも表現できます。十分なお金も、充実した介護や医療も、恋人も、彼のスピリチュアルペインを解消することはできなかったということです。