今回の研究では、網膜の神経節細胞レベルだけでも「拡大する穴」の錯覚を再現できることが示されました。
これは、脳の高次処理だけでは説明しきれない他の錯視や動きの錯視を理解するうえでも重要な手がかりとなり得ます。
今後は、さまざまな形状や色合いの静止画・動画を対象に、同様のモデルを適用し、網膜がどの段階でどのような錯覚を生み出すのか、より詳しく調査していくことが期待されます。
この網膜モデルは「シマウマの縞」や「蝶の羽の模様」など、動物界に見られる複雑なパターンの理解にもつながるかもしれません。
高コントラストの模様が網膜上でどのような情報処理を経て脳に伝わり、捕食者からの隠蔽や求愛行動などの機能を果たしているのか、解明が進むことが期待されます。
人間の目と比べ、デジタルカメラではうまく表現できない明暗のコントラストを、網膜モデルをもとにした画像処理技術で補正できる可能性も考えられます。
この研究で示された網膜神経節細胞の「中心・周辺抑制」や「ローカルコントラスト補正」の仕組みを応用すれば、より人間の“実感”に近い映像再現を目指す技術開発が進むかもしれません。
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元論文
A Bioplausible Model for the Expanding Hole Illusion: Insights into Retinal Processing and Illusory Motion
https://doi.org/10.48550/arXiv.2501.08625
ライター
川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。
編集者
ナゾロジー 編集部