こうした錯覚を研究することで、脳がどのように視覚情報を処理しているか、つまり「何を頼りに世界を『再構築』しているのか」を探る手がかりが得られます。
ただ一口に錯覚と言っても、その原因はさまざまです。
たとえば、「回転する円の錯視」の一部は、脳内の視覚情報処理における“通信の遅れ”や、目が微妙に揺れ動くマイクロサッカードと呼ばれる現象によって引き起こされる場合があります。
一方、錯覚の中には脳の高次処理ではなく、目(網膜)そのものの性質が大きく関わっている可能性が示唆されています。
つまり、同じように「動いているように見える」錯覚でも、原因が脳の奥で起きているのか、それとも網膜や目の動きなど初期段階にあるのかで、メカニズムは大きく異なるのです。
今回注目されている錯覚は、中央に黒い穴のような部分があしらわれた図形を見ていると、まるでその穴が「奥へ奥へ」と広がっていくように感じられる現象です。
「ホワイトホール」と呼ばれる、逆に中央が白いパターンでは、眩しい光に近づいていくような感覚が生じ、実際に瞳孔が縮む生理反応も観察されています。
このように、たった1枚の静止画が私たちの視覚を欺き、暗い場所へ移動しているかのように錯覚させるのはなぜなのか――それを明らかにすることは、視覚研究の大きなテーマの一つになっています。
そこで今回、フリンダース大学の研究者たちは「拡大する穴の錯覚」が起こる仕組みを解明することになりました。
「拡大する穴の錯覚」はどこで起きているのか?
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「拡大する穴の錯覚」はどこで起きているのか?
調査にあたって、研究者たちはまず網膜に存在する神経節細胞(Ganglion Cells)と呼ばれる細胞群に注目しました。