当然のこととして、巨額の資金を提供すればその組織(分野)での影響力は高まり、脱退すれば影響力はなくなる。そのため国際機関からの脱退措置をとることを辞さないトランプ大統領を、近視眼的な人物と描写する方もいる。国際機関における中国の影響力を高めるだけだ、というわけである。

だがアメリカ人に言わせれば、拠出している金額に見合わない影響力しか行使できない場合には、ダラダラと残存しても、合理的な見返りが期待できない、ということになるだろう。

一般論として、あらゆる支出について、効果の度合いを審査し、優先順位を決めてから、進めていかなければならないことは、当然である。アメリカも例外ではない。トランプ政権の特殊性ばかりに目が行く。しかし、なんでもかんでもあらゆるところでアメリカは金をたくさん払わなければならない、とは誰にも主張できないだろう。そうだとすれば、一部分野で、中国の影響力がアメリカの影響力よりも上となる事態が訪れるとしても、両国の経済規模が拮抗してきている以上、一般論としては、そういうこともあるだろう、とは考えなければならない。

さらに言えば、この問題の背景に、現代世界の国際協力の業界全体を覆う構造転換があることも考えておかなければならない。アメリカを中心とする伝統的な「先進国」あるいは国際協力に資金提供している「援助国」の資金力は、相対的に低下してきている、ということだ。

世界の総人口は増大し続けている。アメリカは伝統的なドナー国(国際協力に資金提供している国)の中では、かなり顕著に人口を維持している稀有な国だが(欧州・東アジアでは人口は減少し始めている)、それでも世界全体の人口増加のスピードに追い付いているわけではない。

世界経済は3%台で成長し続けている。これについても、アメリカは「先進国」あるいは伝統的な「援助国」の中では、健闘しているほうである。しかし世界経済全体の成長率を凌駕するほどのスピードでは、成長していない。アメリカGDPの世界全体のGDPのシェアは低下の一途をたどっており、この傾向は今後も続くと予想されている。