そこでラファルグは北に大きく迂回する山なりのルートを通って、監視網をかい潜ろうとしました。
しかしこれに異を唱えたのが船員たちです。
船員たちは山なりに迂回するルートが暴風の頻発する危険な海域であることを知っていました。
彼らはこの海域を通るのはやめるよう進言したのですが、金に目が眩んでいるラファルグはこれを頑として拒否。
操舵手は「航路を変えないと我々は眠れない」と訴えましたが、ラファルグは「それはお前らが無知なだけだ」と罵り、計画通りに航海を続行するよう命じたと、当時の船員の航海日誌に記されています。
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そして1761年7月31日午後10時30分、船員たちの恐れていた事態が起きます。
暴風と荒波に呑み込まれたリュティール号は完全にコントロールを失い、暗礁に乗り上げて難破。
リュティール号の船体は真っ二つに割れ、船員たちは海に投げ出されたり、命からがら船にしがみつくなりしました。
そのとき、波間の向こうに陸地が現れます。
それが物語の舞台である「トロムラン島」だったのです。(当時の名称は「セーブル島」でしたが、今回のある出来事をきっかけに改名されます。その話はまた後で)
結局、フランス人船員のうち18人は溺死し、ラファルグを含む123人がトロムラン島に辿り着きました。
しかしもっと悲惨だったのは黒人奴隷たちの方です。
黒人奴隷たちは積み荷として船底の貨物室に閉じ込められていたため、難破によって海水が入り込み、ほぼ半数の72人が死亡してしまったのです。
トロムラン島に漂着した黒人奴隷は88人となっていました。
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船員たちはラファルグに指揮を仰ごうとしましたが、当の本人は難破によって精神が崩壊したのか、魂が抜けて一言も口がきけない状態に陥っていたといいます。