さらに、衝突実験の精度や規模も大きく向上したため、それまで難しかった「陽子の中のもつれ」を実際の実験データから確かめられるようになってきたのです。
そこで今回、国際的な研究チームは、陽子内部のクォークやグルーオンといった素粒子たちがどれくらい深く量子的に絡み合っているかを新しい視点で探ることにしました。
量子もつれは私たちを作る物質を支えている
陽子内部で粒子はどのように絡み合っているのか?
答えを得るため研究者たちは「電子を探り針として陽子にぶつける」高エネルギー散乱実験を行いました。
具体的には、加速器で非常に速く加速した電子を、陽子(標的)に向けて衝突させます。
電子は電荷を持ち、電磁相互作用を通じてクォークとやり取りをするため、陽子の内部構造を“こまかく”探るプローブ(探り針)として最適です。
電子自身はクォークやグルーオンよりも“シンプル”な構造なので、衝突後の分析が比較的わかりやすいという利点もあります。
衝突が起きると、陽子の内部に潜んでいたクォークやグルーオンとの相互作用が発生し、その結果、たくさんのハドロン(新たに生成される中間子やバリオンといった粒子)が飛び出してくるわけです。
研究では、衝突後に飛び出すハドロンの数やどの方向にどのくらいのエネルギーをもって飛び出すかといった「分布パターン」を詳しく測定しました。
粒子検出器は衝突点の周囲を取り囲むように配置されていて、飛んできた粒子の軌跡やエネルギーを高精度で記録します。
これにより、陽子内部にあったクォークやグルーオンがどのくらい“絡み合って”いたかを理論モデルを用いて推定します。
衝突前のクォークやグルーオンの状態を直接見ることはできませんが、それらが「どのようにもつれていたか」という情報が、衝突によるハドロン生成の仕方や分布の“乱雑さ”に反映される、という理論的な予想が近年提唱されています。