外骨格ロボットグローブでピアニストの指を自動的に動かし、通常の運動速度を超える複雑な動きを体験させるというのです。

これまで外骨格技術は、医療リハビリテーションや産業分野で広く活用されてきました。

例えば、脳卒中患者のリハビリや、重い荷物を持つ作業員の負担軽減に役立てられてきました。

これらの分野では、外骨格が、主に人間の運動能力を補助し、回復を支援する目的で使用されます。

しかし今回の研究では、従来のように「人間の能力を補う」ために外骨格を使用するのではなく、「人間の能力を拡張し、限界を超える」ため活用しようというのです。

外骨格によるトレーニングが「熟練ピアニストに自分の限界を超えさせる」

古谷博士たちの研究チームは、8歳になる前から少なくとも1万時間ピアノを弾いてきた合計118人の熟練ピアニストを対象に複数の実験を行いました。

まず、参加者たちは2週間、自宅で従来のピアノ練習を行い、技術が停滞することを確認しました。

この練習では、ショパンの『練習曲Op.25-6』やラヴェルの『オンディーヌ』など、高速かつ複雑な演奏が求められる難曲を課題曲としました。

こうした難曲を演奏するためには、指を独立して動かす能力や高い速度が求められますが、従来の方法では特定のスピードを超えることができず、演奏技術が頭打ちになることが改めて確認されました。

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外骨格グローブを用いて、参加者が自力で出せる以上の指の動きを経験させる / Credit:古屋晋一 (Sony CSL)ら, Science Robotics(2025)

その後、参加者たちは研究室で外骨格グローブを装着し、右手の各指を毎秒4回の速さで動かすトレーニングを実施しました。

この速さは、参加者が自力で出せる指の動きの約1.7倍に相当し、通常の練習では不可能な速度です。

ちなみに、このグローブの動きは特定のパターンを基に設計され、指の交互運動や複雑な同時打鍵を正確に再現するものでした。