ちなみに、ダボスに中国から参加した丁薛祥副首相(Ding Xuexiang)は、「中国は多国間主義、自由貿易、気候保護、国連の強化を支持する」と述べ、「中国は国際秩序の断固たる守護者だ」と主張した。また、世界の分断に警告を発し、「経済的グローバル化は、勝者と敗者がいるゼロサムゲームではなく、すべての人が利益を得て共に成功できる普遍的に有益なプロセスだ。保護主義はどこにも通じない。貿易戦争には勝者はいない」と付け加えている。
ところで、トランプ大統領の「米国ファースト」をみていると、米国の哲学者ウイリアム・ジェームズ(1842~1910年)の「プラグマティズム」(実用主義)を思い出す。実用主義は、真理や価値をそれらが生む実際的な結果や有用性に基づいて評価する哲学だ。物事の価値や真理は抽象的な観念や普遍的な基準によるのではなく、実際の行動や経験の中でその有効性が試されるという考え方だ。プラグマティズムによれば、真理とは「思考や信念が実際の経験や行動において成功をもたらすかどうか」で決まる。ジェームズの言葉を借りると、「ある信念がうまく働き、私たちの生活や経験の中で満足をもたらすならば、それが真理である」ということになる。何か、トランプ氏の政治スタイルを思い出してしまうのだ。
フォン・デア・ライエン委員長は欧州の共通の価値を強調するが、27カ国から構成されたEU加盟国の間では共通の価値観は揺れている。一方、米国発の実用主義はどのような考えや信念も実際的な影響や結果が伴わなければ意味がないと考える。現実の問題の解決に役立つならばそれは真理だ。真理は固定的ではないのだ。同委員長と米国流実用主義の間には明確なパーセプションギャップがある。ジェームズによれば、真理は作られるものであり、それが役立つ限りで真理である。企業経営における「結果重視」にも通じる。
トランプ氏の政治スタイルには、アメリカ的な実用主義の影響が見られる。その形態は伝統的な哲学としての実用主義とは異なるが、結果重視や実際的な視点が色濃く反映されている。実用主義の基本は「何がうまくいくか」に焦点を当てることであり、トランプ氏の政策や意思決定もこれに近い特徴を持っている。たとえば、経済政策では、雇用創出や経済成長率といった具体的な成果を強調し、外交では「アメリカ第一主義」を掲げ、自国の利益を最大化することを主目的とする。問題解決志向でもトランプ氏は「取引(deal)」という言葉を多用し、問題を交渉や取引で解決するという実務的なアプローチを好む、といった具合いだ。