寝る直前にやっておくべき3つのこととは?
いよいよ新元号がスタートしました。令和元年は「働き方改革元年」でもあり、すでに4月から働き方改革関連法の適用が順次開始されています。
この働き方改革を進める上でカギとなるのが「生産性の向上」です。その実現のために「睡眠」に注目し、社員の睡眠改善に取り組む企業も増えています。長年、健康住宅を手がける工務店として、健康と睡眠環境について研究してきた早稲田ハウス株式会社社長の金光容徳さんに、忙しいビジネスパーソンが理想の眠りを手に入れるノウハウを伺いました。
睡眠で大切なのは時間よりも「質」
生産性を上げるために大前提となるのは、集中して仕事に取り組むことでしょう。しかし、その障害となっているのが「睡眠不足」です。
睡眠不足によって集中力が低下することは様々な実験から明らかで、ある実験では寝不足の状態で4時間だけ眠った人の脳の状態を調べたところ、意思決定や問題解決、記憶といった機能を担う前頭葉と頭頂葉の活動レベルが著しく低下していることが分かりました。
さらに、睡眠には学習したことを脳に定着させるという機能もあります。十分に眠れている子どもほど、成績が良いというデータもあるのです。
それなら睡眠時間を増やせばいいかというと、それだけでは解決しません。一見、ぐっすり眠れているようで、浅い眠りが続いていることもあるからです。大切なのは「眠りの深さ」。忙しくて十分な睡眠時間を確保できない人ほど「睡眠の質」を上げることが重要になります。
眠りについてから4時間以内がカギ
では、睡眠の質を左右するのは何か。1つは「深睡眠」がどれだけ得られたかです。
ひと晩眠っている間、脳はノンレム睡眠(脳はしっかりと休み、夢もほとんど見ない深い睡眠)、レム睡眠(体は眠っていても脳は眠っていない浅い睡眠)の状態を90?120分間隔で交互にくり返します。
深睡眠はノンレム睡眠の最も深い状態で、この時間帯に体だけでなく、脳の疲れも8割とれると言われています。
そして、深睡眠は眠りについてから4時間以内に最も多く発生するため、睡眠開始後、4時間以内に深睡眠を得られないと、どんなに睡眠時間が長くても「ぐっすり眠れた」「疲れがとれた」と実感することはできません。
つまり、どれだけ早く深睡眠にたどり着けるかは、「いかに寝つきをよくするか」にかかっているのです。
寝つきをよくするためにやるべき3つのこと
よく「寝つきをよくするためは、寝る3時間前に食事、1?2時間前に入浴を終えておくべきだ」と言われますが、忙しいビジネスパーソンには難しいでしょう。でも、忙しい人でもすぐにできることがあります。
まず1つ目は入浴法です。就寝1時間前までに浴槽にしっかり浸かって体の芯まで温まり、体の内部の温度(深部体温)を上げます。こうすることでお風呂から上がると徐々に深部体温が下がり、1時間ほどで眠気が出るのです。40度程のお湯に10分程度浸かればよいでしょう。
どうしてもシャワーだけという場合は、血管の集中する首の後ろにシャワーを当てることで、深部体温を上げやすくなります。
2つ目は寝る前に何らかの儀式、いわばルーティンを行うことで、入眠スイッチをオンにすることです。ストレッチをする、静かな音楽を聴く、瞑想をするなど何でもいいです。
ただし、スマホやパソコンが発する光には睡眠を促すメラトニンの分泌を抑制するブルーライトが多く含まれているため、就寝1時間前は見ないことをおすすめします。
そして、3つ目は意外に忘れられがちですが、寝室の環境づくりです。そもそもリラックスした状態で睡眠に入り、ぐっすり眠れるような環境でなければ、深睡眠の状態になるまでに時間がかかってしまうのです。
寝室は“空気、置く物、光”にこだわる
私が長年、寝室の環境づくりに携わってきて、特に大切だと思うのが次の3つです。
(1)空気がきれいなこと
(2)寝室に不要なものがないこと
(3)自然な外光が入ること
この中で一番重要なのが(1)です。なぜなら大人は睡眠8時間の間に2Lのペットボトルおよそ1800本分(2880L?4320L)もの大量の空気を吸い込み、吐き出しているからです。当然、ホコリ、カビが含まれた空気をひと晩吸っていたら体にいいわけがありません。
特に私が懸念しているのが化学物質の影響です。そのため、寝室の内装にはホルムアルデヒドなどの有害な物質を含まない自然素材をおすすめしたいところです。
空気というと、空気清浄機を使えばいいと考える方が多いのですが、寝室での使用は避けましょう。特に床に置くタイプは床のほこりやチリを空気中に舞わせやすく、それを寝ているうちに吸ってしまう危険性があるからです。
寝る前に「家具に布をかける」のがお勧め
続いて(2)です。人間の脳は非常に敏感で、視覚からの情報だけで無意識に色々な働きをしてしまいます。テレビを見たり本を読まなかったりしたとしても、部屋にテレビや本棚が置いてあるだけで脳が刺激されてしまうのです。そのため、寝室には睡眠に関するもの以外、置かないのがベストです。
「寝室にはベッドだけ」が理想ですが、難しい場合は寝る時に家具に白い布をかけて余計なものが目に入らないようにしたり、置いてあるものを片づけたりして対応しましょう。大事なのは、脳の刺激になるようなものをなるべく減らすことです。
そして、布をかけたり片づけたりした後、歯を磨く、ベッドに入るというように、眠るまでの行動を毎日パターン化して、先述した「入眠儀式」にしてしまうのがおすすめです。
最後に3ですが、寝る前に明るい光を浴びると、ノンレム睡眠の時間を短くしてしまうので、寝室に強い光は不要です。
だからといって真っ暗ならよいわけではありません。眠りに入る時は月明かり程度の明るさが最もリラックスできます。そして、朝は窓ガラス越しでも太陽の光を浴びられることが大切です。これは人間の体は太陽の光を浴びてから14時間後にメラトニンが分泌され、眠くなるようにできているからです。
こうした朝、夜の条件をクリアするために、寝室には外の光がうっすら入る程度のカーテンを使いましょう。
「究極の寝室」が運転士の眠りを変えた!
これら3つの条件を叶えるだけでも十分に睡眠の質を高める効果があるので、私のアイデアで、壁を珪藻土(けいそうど)の塗り壁で調湿機能を、床は自然な木の香りでやすらぎと油分が多く湿気に強い飫肥(おび)杉の無垢材を使用、さらには、天井は湿度調節、消臭効果のある天然の炭塗料で真っ黒に塗る「究極の寝室」と名付けた部屋を、2017年に千葉県を走る銚子電鉄の宿直室に寄贈しました。
すると運転士の方から「一度寝たら朝まで起きなくなった。今は眠ることが楽しく、睡眠を業務のうちとは思わなくなりました」といううれしい感想をいただきました。
この実績をもとに、当方ではこれらのノウハウを積み重ねた寝室設計の住宅を手がけています。忙しく働いているビジネスパーソンにとって、寝室は1日のうちで一番長く過ごす空間です。質の高い睡眠のため、寝室にこだわってみるのもよいのではないでしょうか。
文・金光 容徳(かねみつ ようとく)
早稲田ハウス株式会社社長
1951年、千葉県生まれ。早稲田大学卒業。金融機関、不動産会社勤務を経て、1977年に千葉県松戸市に早稲田ハウス株式会社を設立。当初はローコスト住宅を手がけていたが、子どものアトピー性皮膚炎に悩む顧客との出会いをきっかけに、30周年を機に健康住宅専門店にシフトする。その後、寝室の重要性に着目し「究極の寝室」を開発。2019年1月には自分で「究極の寝室」にリフォームできるDIYキットを発表。著書に『元気で賢い子を育てたいなら子どもがぐっすり眠れる部屋を作りなさい』(アスコム)がある。(『THE21オンライン』2019年06月21日 公開)
提供元・THE21オンライン
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