なぜファウチ博士の予防的恩赦に反対するかは、同博士が新型コロナウイルスのパンデミックの全容解明をまだ明らかにしていない疑いがあるからだ。共和党にとってファウチ博士はパンデミックを象徴する存在であり、コロナ対策におけるあらゆる失敗を体現する人物と見なされている。ウイルスの起源を隠蔽したのではないかという疑いに対し、同博士はこれまで一貫して否定してきた。

中国武漢発の新型コロナウイルスの発生源問題では「自然発生説」(a natural zoonotic outbreak)と「武漢ウイルス研究所=WIV流出説」(a research-related incident)の2通りがある。前者を支持するウイルス学者が多いが、後者を主張する学者も少なくない。

米上院厚生教育労働年金委員会(HELP)の少数派監視スタッフの共和党議員らが15カ月間にわたり調査、研究して作成した「COVID-19パンデミックの起源の分析、中間報告」(An Analysis of the Origins of the COVID-19 Pandemic Interim Report)が2022年10月下旬、公表され、関心を呼んだ。

同報告書は全35頁、4章から構成され、結論として、「公開されている情報の分析に基づいて、COVID-19のパンデミックは、研究関連で生じた事件(事故)の結果である可能性が高い」と指摘、「WIV流出説」を支持している。その直後、米エネルギー省は2023年2月、中国武漢発「新型コロナウイルス」の発生起源がWIVからの流出との結論に至ったという。同省の結論は新たな情報に基づいて下されたというが、その詳細な情報は明らかにされなかった。

当コラムで何度か指摘してきたが、新型コロナウイルス感染起源を知るうえで貴重な学者がいる。彼らは過去、WIVと接触があり、中国人ウイルス学者、「コウモリの女」と呼ばれている新型コロナウイルス研究の第一人者、WIVの石正麗氏と一緒に研究してきた専門家だ。