注意を強く向けている対象があるときには、波がうねりを増したり形を変えたりして、ちょうど“電車のダイヤを増発”しているかのように、その情報を効率よく運ぶのです。
さらには「進行波がこそ意識の基盤なのでは?」という大胆な理論を唱える研究者までいます。
ニューロン同士のシグナル伝達はごく微小なプロセスに見えますが、進行波の視点に立つと「かなり大きなスケールで、しかもある方向性をもって情報が流れている」ことを捉えられます。
これこそが、脳が複雑な認知や感覚統合を可能にしている秘密の一端でもあるのでしょう。
こうした進行波の発見は、私たちが「脳は単に多数のニューロンが電気信号を送り合っているだけでない」ことを強く示唆しています。
「考えが頭の中を巡る」という表現も、進行波の動きをみればあながち嘘とは言えないのかもしれません。
興味深いことに、近年は人工ニューラルネットワーク(AIの内部構造)でも、脳と似た進行波の動きが確認できるようになってきました。
もちろん、人間の耳や目で直接見たり聞いたりできるものではありませんが、数式やアルゴリズムの世界で「波」として捉えられるパターンが出現しているのです。
近年の研究では、この進行波が「単に波が動いている」だけでなく、AIが物事を“どのように見て”、“どこを切り分けるか”を決定する鍵になっていることが示唆されています。
そこで今回、ウェスタン大学の研究者たちは、AI内部の進行波の挙動を知るための数学的なツールを開発し、AIの思考や注意点の流れ、さらに意思決定のメカニズムを調べることにしました。
もしAI内部で進行波を上手くとらえることができれば、ブラックボックスと言われていたAIの思考過程を明らかにすることができるかもしれません。