そしてコール氏は「本当に説得力があるのは彼らのレパートリーにない声を模倣させることだ」として、シャチに人間の声マネをさせることにしたのです。

シャチが「人間の言葉」の声マネに成功!

実験に選ばれたシャチは、フランス南部アンティーブの水族館で飼育されていた当時14歳のメス「ウィキー(Wikie)」です。

いきなり人の声マネをさせるのは無理があったため、チームは最初に、他のシャチが発する声(ウィキーがそれまでに聞いたことがないもの)を模倣する訓練をし、成功したらご褒美の餌を与える実験をしました。

そしてウィキーが声マネの訓練に慣れてきたところで、いよいよ本番です。

シャチに文章を喋らせるのは不可能なため、チームはいくつかの短い単語を選びました。

例えば「ハロー」「バイバイ」「エイミー(飼育員の名前)」「ワン、ツー」「アハハ(ah ha)」といったものです。

これらの単語を飼育員のエイミーさんが発話し、それを模倣できたら餌を与える訓練を続けました。

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実際の訓練の様子/ Credit: University of St Andrews(2018)

ウィキーの発話はエイミーさんを含む2名の飼育員によって評価され、その後、6名の研究者が録音データの音響パターンを含めて、元の人の音声とどれだけ似ているか(模倣したと言えるか)を判定しました。

その結果、ウィキーはすべての言葉を17回以内の練習で模倣することに成功したのです。

特に「ハロー」に関しては1発目で模倣に成功しており、その後の試行でも50%以上の精度で正しく発音できたことが確認されています。

では実際の音声とその様子を見てみましょう。

(※ イヤホンを推奨します。音量に注意してご視聴ください)

もちろん完璧な再現とは言えませんが、ウィキーが人の言葉を模倣しようとしていることはわかるでしょう。

しかしシャチは海の生き物であり、私たちヒトのように声帯を使った発話はできません。