著者らが懸念しているのは、女子枠の導入によって「個人の努力や実力が正当に評価されなくなる」可能性だという。女子枠があることで、「女性は特別扱いされて大学に入学している」という偏見が根強くなる危険性がある。さらには、女子枠の存在そのものが女性を一括りに扱い、個々人の経歴や能力を軽視する結果に陥りかねない、と論文は警鐘を鳴らしている。

女子枠が招く逆効果

実際に論文では、女子枠を活用して入学・昇進した学生・研究者に対して、周囲から「本当に優秀なのか? それとも性別のおかげか?」という疑念が向けられる可能性を指摘している。こうしたスティグマ(日本語で烙印・汚名など)が長期的に女性本人のキャリア形成を阻み、かえって意欲をそぐ要因となる恐れがある。

さらに、女子枠によって大学側が「女性は理系に向いていない」というステレオタイプを裏で強化してしまう危険性もあるという。実際、本来は男女問わず真に実力を発揮できる場を作ることこそが多様性の理想であるはずだが、女子枠があることで「女性には別のハードルを設けねばならない」という印象を社会に与えかねない、というわけだ。

ではどうやって多様性を実現するのか?

論文は「目先の人材確保を優先した女子枠導入は、長期的に見ると女性の地位向上を阻む」と述べている。大学や企業にとって、女性を確保すること自体が目的化し、性別に基づく「数合わせ」だけが進んでしまう懸念があるのだ。

著者らは、本当に女性が活躍できる環境を整備するには、むしろ女子枠のような短絡的な制度ではなく、教育現場や職場風土の根本改革、親世代の意識改革こそが重要であると繰り返し述べている。

おわりに

本論文の意義は「女子枠は女性に対しても悪影響ではないか」という新たな視点を提示したことにあるのではないだろうか。多様性を重視する立場からしても、制度設計を誤れば逆効果になるとの懸念を拭えないのだ。女子枠への批判に学術的多様性が生まれてきたことは大変興味深い現象である。