代わりに、テラヘルツ帯の“柔らかい”光が用いられました。
これは、物質全体を過度に“熱する”ことなく、結晶構造やスピン(電子の量子的性質)が弱く結びついている部分だけをピンポイントで揺さぶる、いわば“狙い撃ち”の制御を可能にします。
本記事では、まず「磁力の正体とは何か?」を解説し、「なぜ光が鍵になるのか?」や「FePS3という聞き慣れない物質が、どうして“光に対して素直”に磁性を変化させるのか?」といった疑問に迫っていきます。
研究内容の詳細は『Nature』にて「FePS3における臨界近傍のテラヘルツ磁場誘起準安定磁化(Terahertz field-induced metastable magnetization near criticality in FePS3)」とのタイトルで公表されています。
目次
- 第1章:磁力の正体をわかりやすく解説
- 第2章:光で磁石でないものを磁石にすることに成功
- 第3章:まとめ「光は破壊だけでなく創造にも使える」
第1章:磁力の正体をわかりやすく解説
磁石といえば、多くの人が「N極とS極を持ち、同極同士は反発し、異なる極同士は引き合う」という知識をまず思い浮かべることでしょう。
身近な例を挙げれば、冷蔵庫のドアにペタリと貼り付けるマグネットや、地球の南北を指し示すコンパスなどが代表的です。
しかし、その磁力はいったいどこからやってくるのでしょうか?
高校の物理や化学では「磁力の正体は電子のスピン」という記述がされていますが、磁力の本質をイメージすることは意外と簡単ではありません。
また、大学レベルの教科書でも「スピン」の本質がかなり曖昧な記述がなされており、スピンという単語に忌避感を覚えてしまう人もいるでしょう。
たとえば一般的な高校の教科書では、
電子は自転のような固有の角運動量(スピン)をもっており、電荷をもつ電子がスピンすることで磁力(磁気モーメント)が発生します。