「光を当てるだけで物質が磁石になる」という話を聞けば、多くの人は驚くでしょう。

私たちが普段イメージする磁石といえば、冷蔵庫にくっつく金属片や、方位磁針に使われる小さな磁石などだからです。

そのような身近な磁石たちは光で磁石になったのではなく強力な磁場に晒すことで作られます。

ところが、アメリカのMIT(マサチューセッツ工科大学)が行った最新の研究では、光を当てただけで、本来は磁石ではなかった物質に磁力を授けることに成功しました。

強力なレーザーパルスを照射して秩序や対称性を一時的に乱すと、思いがけない“瞬間的な相”が生まれる現象は、これまでも多く報告されています。

たとえば「光で超伝導を誘起する」「光で強誘電性を高める」といった例が挙げられ、近年の超高速レーザー分光技術の進歩に伴い次々と見つかっています。

しかし、それらの大半は文字通り“瞬間”で終わり、ピコ秒(1兆分の1秒)ほどしか持続しません。

したがって、現実に応用するにはあまりにも短すぎました。

ところが今回の研究では、FePS3(鉄・リン・硫黄の三つからなる層状化合物)という“磁力を持たない”物質に対して、約2.5ミリ秒もの間“磁石”として振る舞わせることに成功しました。

これは従来のピコ秒スケールと比べ、10億倍も長い時間です。

ミリ秒というと一瞬のように思われますが、光による現象としては異例の“長寿命”といえます。

このミリ秒の時間があれば、誘起された磁化状態を外部から観測したり、デバイスに応用したりするための十分な余裕が生まれます。

実際、研究者たちは「ミリ秒は永遠のようなものです」と語っています。

人間の感覚では短くても、物理学的な理論構築や工業的な利用を念頭に置くと、2.5ミリ秒という長さは必要にして十分な時間だというわけです。

さらに、この実験で使われた光はエネルギーが比較的低く、電子を直接励起してしまうような高エネルギー光ではありません。