かつて世界で最も豊かな国のひとつといわれたアルゼンチンは、人的資源と天然資源において大きな可能性を秘めつつも、いまや相対的に貧しい国のひとつになってしまった。
この深刻な衰弱、貧困、経済的・社会的危機は、前政権やその前の政権による放漫な政策が大きな原因である。
以下では、「貨幣の創造とインフレによる財政赤字がもたらす莫大な損害」について見ていきたい。 そして、この甚大な被害が、インフレ政策を推進・協力者・積極的に参加した者すべてを犯罪者として厳しく罰することを正当化する理由となっている。
財政赤字のマネタイゼーション(財政ファイナンス)がもたらす影響について考えてみよう。
1. 民主主義制度への直接的な攻撃民主主義の本質は「歳出予算とさまざまな公的財源を、完全な透明性をもって民主的に管理すること」にある。
しかし、マネタイゼーション(単なる新札の発行による資金調達)は、公共支出をきわめて「反民主的」なものにする。
なぜなら透明性のある公的歳入・歳出の結びつきを断ち切ることで、公共支出のうち税金で賄われていない部分のコストを、「貨幣を保有する大衆の購買力を隠蔽された方法で奪う」という形で負担させるからである。
こうした状況は徐々に進行し、人々は最初その原因に気づかない。
それでも長期的には購買力の大幅な低下となって現れる。
アルゼンチンではこれが何年も続いており、直接的な財政赤字のマネタイゼーションだけでなく、表向きは新たな公的債務で赤字を賄い、その債務を中央銀行が創出した資金で直ちに流通市場で大量に買い取るという形でも行われている。
欧州中央銀行(ECB)や米連邦準備制度理事会(FRB)などの中央銀行も、「金融政策の実施」という名目と「法の傘」のもとで、同様の方法をとり、さまざまな政府が発行した公的債務の3分の1まで取得している。
2. 政治家の予算管理の歯止めを取り除く財政赤字をインフレで賄うことが常態化すれば、政治家が本来は民主的な予算管理によって負うはずの「責任と制約」が消失する。