これは一理あります。 緩和ケアが普及し、一般の人が緩和ケアがどのようなものかを理解してから安楽死の議論を始めるべきだという主張です。しかしながら、緩和ケアがあれば安楽死が不要なのかと言えば、必ずそうとは断言できないのが現実なのです。
緩和ケアの先進国と言われているイギリスにおいても2024年に安楽死法案が議会下院で可決されました。緩和ケアが完璧なものであるなら、このようなことにはなりません。緩和ケアか安楽死かは選択できるべきだとするイギリスの世論が後押ししたのです。イギリスの現場の責任者が緩和ケアの限界を訴えています。
将来、日本で安楽死が法制化されるのは必然だと私は思います。 不備のない安楽死制度を作るには時間がかかりますから、今から準備を始めるべきなのです。緩和ケアの普及を待つ必要はありません。
日本では尊厳死が法制化されていないのに安楽死の法制化は可能なのか?最後に尊厳死(延命治療を行わずに死を迎えること)との関係について言及しておきます。尊厳死が法制化されていない現在の日本において、尊厳死より先に安楽死を法制化することに特に問題はないと私は考えます。
まず、現在の日本では法制化がなくても尊厳死を実施することは可能です。一方、安楽死を実施するには法制化が必要です。
次に、尊厳死の法制化では、その是非を問題としているわけではありません。手続き・手順を明確に定めて医療現場での混乱を防ぐ、具体的には医師の免責を法的に保障することが目的です。 一方、安楽死の場合はその是非を問う法制化であり、意味合いが全く異なります。
第三に、尊厳死と安楽死では実施される時期が多くの場合異なります。尊厳死は「延命治療を控えて自然な死を迎えること」を意味しますので、実施されるのは終末期~臨死期です。一方、安楽死は終末期の前半、場合によっては終末期より前の時期にも実施されます。つまり、安楽死は尊厳死を単に置き換えるものではないのです。