SNSで活躍するインフルエンサーやモデル、あるいはビジネス面で成功を収めている女性たちは、まさに自らの外見的魅力や個性を“ブランディング戦略”として活用することで、社会的・経済的リターンを得ています。

もちろん、これを「まったく抑圧的要素のない自由な選択」と言い切るのは難しいでしょう。文化的な性役割や美の基準が内面化されている可能性を否定することはできません。

しかしながら、ブランディングの視点を導入すれば「抑圧されているか、それとも主体的なのか」という二元論にとどまらない、より複雑でダイナミックな女性像が見えてきます。

所得格差が激しい環境においては、その“主体的”とされる行動が、より一層強化されるインセンティブをもつというわけです。

ジェンダー不平等は歴史的・制度的に根強い問題であり、今なお世界各地で顕在化しています。しかしBlakeらの研究が指摘するのは、「ジェンダー不平等が小さくなっても、所得不平等が大きい環境ならば、女性の性的自己表現はむしろ増えるケースがある」という逆説的な現象です。

これはジェンダー研究やフェミニズムの中でも意見が分かれるトピックであり、「女性のパワー獲得」と「男性支配構造」それぞれの側面を同時に扱うための新たな論点を提供しています。

格差問題としての性

女性の性的自己表現が増えることを否定的に捉える人もいれば、「自己決定権の行使」として肯定する人もいます。フェミニズムの内部でも意見が分かれるテーマですが、本コラムが提起したのは、少なくとも「男性支配構造を打破すれば性的自己表現が消えるか」というと、必ずしもそうではない可能性があるという点です。

むしろ、格差社会の中で女性が競争を強いられる構造そのものを是正しない限り、性的イメージが蔓延する状況は変わらないかもしれません。

つまり、いくら女性の社会進出や法的権利を拡充しても、所得格差が抜本的に解消されない限り、外見競争や性的自己演出がむしろ加速するというパラドックスが存在し得るのです。