日本の原油輸入単価(円建て)は、ドル建ての国際価格と円/ドル為替レートの積。2022年1月を基準として日本の原油輸入単価の上昇を計ると、2023年6月から2024年10月までの間、平均してその8割以上が円安に起因する。2022年第4四半期以降、日本にとっての原油高価格は、すぐれて円安の結果である。

したがってその対策は、行き過ぎた円安の是正を主眼とせねばならない。端的に言えば、石油輸入の抑制を図ることだ。燃料油高の負担に苦しむ低所得家計への支援も、本来は、円安の受益者(輸出企業等)からの所得移転として為されるべきだ。

2022年以降の燃料油補助金投入は、事実上、政府が輸入原油の約2割分を産油国から国際市場価格で購入し、それを無料で国内石油企業に配給したのと同然だ。この石油大安売りは、財政規律を犠牲とする石油消費の奨励であり、かえって円安・原油高を助長する、自傷的な行為だ。

国内価格が、国際価格及び為替レートを反映して随時変動し、これを共通の手掛かりとして石油消費・供給者が主体的に行動を変容させる、その無数の地道な変革の積み重ねが、原油高への日本の対応能力を決する最も根本的な要因である。

しかし補助金の下で、国内価格は国際石油・為替市場との連動性を失い、「仮想現実」と化して低位安定した。これは原油高に対する、日本社会の自主的・創造的な取り組みを妨げる。

燃料油価格が政府・与党の一存で決まるのならば、その上昇を抑えるには、有権者として値上げに反対すればよい。世論の圧力が掛かれば、政党・政治家は値下げを容易に決め得ても、値上げは躊躇する。

消費側では省・脱石油に励む必要が薄れ、供給側でも、補助金が需要を下支えする分、経営努力せずに済む。「民意」の名のもと、仮想現実の偽りの安住へと沈み込む、強い重力が働く。

ガソリン暫定税率の廃止は、補助金で実現していた低価格を、更に踏み込んで減税の形で恒久化を図るものだ。現在の暫定税率53.8円は1979年6月、第1次大平内閣で定まり、以来45年間据え置かれてきた。したがって消費者物価指数で測ったその実質税率は今日までに35%以上減少。いわば「静かな減税」だったが、ここから28.7円の本則税率へ。これは1964年に第3次池田内閣の下、第4次道路整備5ヵ年計画の財源として定められた税率であり、やはり実質的には当時の約5分の1まで下がっている。