しかし、飯の話は措いといて、大事なのはなぜ私に依頼が来たのかでした。いくら焼きとんが好物でも、別にそれでお声がかかったわけじゃない。

寄稿させてもらったぼくのエッセイのタイトルは「懐かしさの正体」。どうしてネオンサインのお店が、リアルな昭和をそこまで知らない世代にも、ノスタルジックに映るのかを考えています。

手がかりとして、前作『NEON NEON』からの引用で、文中で採り上げた力の社員さんの発言は――

先代の社長がよくおっしゃっていたのが「おかえりなさい」というキーワードで。お店を見た時にいつもと変わらないうちのネオンがあると、「ここに戻ってこられる」という安心感がある。「あー、戻ってきたんだな」というのが、ネオンで実感できるんじゃないですかね。

強調は引用者

そうなんですよね。安心とは「自分はここに居てもいい」という感覚のことで、そのかぎりでは懐かしい場所に抱く情緒とも重なる。なので、安心感さえ醸されるなら、はじめての場所を「懐かしく」思うことも起きうる。

ではなぜ、ネオンの灯りが安心感をもたらすかというと、色んな意味でキラキラしすぎないからだと思うんですよね。「キラキラした人なら」ここに居ていいよ、という発想が、実際にはネガティブさを抱えた多数の人びとを排除する、多様性と正反対のものである点は、何度も述べてきました。

逆にいうと、不安とは「自分がこの場に存在すること自体」をあってはいけない不正義のように感じる状態だ。おまえは十分キラキラしていない、おまえは十分クリーンじゃない、おまえには十分な知識がない……みたいな言い方は、いずれも聞く人から安心感を奪う。