ただし、当時と現在では欧州の政界は違う。EU内でもハンガリー、スロバキアなどは自国ファースト政策を推進する加盟国が出てきたし、フランスやオランダなどで極右派政党が選挙で躍進している。オーストリアで自由党・国民党の連立政権が誕生したとしても当時ほどの抵抗はないだろう。
オーストリアでは州レベルではニーダーエステライヒ州、オーバーエステライヒ州、ザルツブルク州、フォアアルーベルク州、そしてシュタイアーマルク州で自由党が州議会で与党になっている。特に、シュタイアーマルク州では自由党のクナセク州首相が誕生したばかりだ。その意味で、自由党へのアレルギーは昔より少ない。
ただし、国民党のネハンマー首相は選挙戦で自由党のキックル党首との連立は絶対に拒否すると表明してきた。その手前、今更キックル党首との連立は出来ない。そのうえ、キックル党首が主導した自由党・国民党の政権下ではネハンマー氏は首相ポストには就けない、といった個人的事情もある。
そこで国民党と社民党が連立政権を誕生されるか、専門家政権を発足させるか、それとも早期総選挙を実施するかの3通りのシナリオしかない。参考までに、ネハンマー党首に代わって、クルツ元首相を国民党の党首に就任させる、といった話が聞かれる。政治スキャンダルで辞任に追い込まれたが、国民的人気のあったクルツ氏の政界カムバックが排除できなくなったというのだ。
ちなみに、自由党のキックル党首はネオスの連立交渉離脱のニュースを聞いて内心「ほらみたことか」と喜んでいるだろう。自由党にとって、キックル首相以外のシナリオは考えられないのだ。早期総選挙もウエルカムといった感じだ。
いずれにしても、同国では政治家もメディア関係者も「いつ新政権が発足するか」と問われて、自信をもって答えることができる人は誰もいなくなったのだ。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2025年1月5日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。