ネオス党首は口にこそ出さなかったが連立交渉の相手、社民党の左派勢力の主張についていけなかったのだ。同国メディアは「社民党内の左派勢力の圧力が強く、バブラー党首は国民党やネオスの政策に妥協できなかったからだろう」という。いずれにしても、ネオスが連立交渉から離脱を決意したというニュースは国民党、社民党の両党にも大きなショックだったはずだ。
ネオスが離脱したことで、今後どのような連立交渉が可能だろうか。国民党と社民党の2党でも議会の過半数を1議席だけ上回るが、不安定な政権となってしまう。安定政権を発足するためにはどうしても第3の政党が必要となる。「緑の党」がまだいるが、国民党は「緑の党」の政権入りには強く反対している。そうなれば、国民党と社民党の2党の連立政権しかない。もちろん、総選挙のやり直しというカードも聞かれるが、総選挙を今実施すれば、極右「自由党」が更に得票率を伸ばすことは明らかだ。
国民党のネハンマー首相にとってハムレットの悩みだ。ネオスは去り、「緑の党」は嫌だ。社民党との連立は可能だが、両党は元々政治信条が違う。財政健全化より、社会福祉関連予算、補助金を重視する社民党との連立は国民党にとって荷が重たい。
ここまで説明していくと、鋭い読者ならば気が付くだろう。第1党の自由党をどうして排除し続けるのか、第1党の自由党抜きの連立交渉が難しいのは当然だ、という指摘だ。
国民の3割が支持する自由党を連立交渉から外せば、安定政権は難しい。例えば、自由党と国民党が連立政権を発足すれば安定政権となる。両党は税制問題や財政予算の健全化、移民対策でほぼ同じ路線だ。問題は対外関係だ。
自由党は欧州連合(EU)に対して懐疑的であり、ロシアのプーチン大統領のウクライナ侵略に対して融和的な政策を取ってきた。それだけではない。極右「自由党」主導政権がオーストリアに発足すれば、ブリュッセルから批判が高まることは必至だ。実際、2000年、国民党と自由党の連立政権が発足した時、欧州諸国からオーストリア排斥運動が高まった。