中国で急に民営企業が脚光を浴びるようになり、一方政府はWTOに加盟するために辛い国有企業リストラを進めるようになったのは、国家財政にカネがない中で経済を成長させるためには、カネのある外資企業と民営企業に成長を担ってもらうしかなかったからだ。

後で述べるように、国内にはWTOに加盟すれば国内産業がますますダメージを被るという不安もあれば、「民営企業を経済の主役に位置づけることは社会主義の理念に反する」という保守派の反対もあった。しかし、江沢民主席と朱鎔基総理のコンビは「財政に金がないんだから、仕方がないだろう」で反対論を押し切った(ように思えた)。

昨今、欧米では「中国は我々を騙してWTOに加盟した」という論調を聞く。しかし、人を騙す仕掛けにしては、国有企業リストラがもたらす痛みは大きかった。「WTOに加盟すれば必ず成功する」勝算があるとも見えなかった。

1999年CCTV(中国中央電視台)の公開討論番組に出演したことがあるが、一緒に出演した某大国有企業の総経理は「WTOに加盟できなければ、中国の未来はない」と言い切った。聞いていて「中国はそれくらい危機感に迫られ、それくらい追い詰められているんだ」と感じたことを覚えている。

蓋を開けると、2001年中国が正式にWTOに加盟する前後から、世界中から外資企業が中国に殺到して投資した。彼らはカネだけでなく当時の中国に最も欠けていた技術や経営管理も持ち込んだ。次々と沿海部に建つ外資の工場で働くために、1億人を超える内陸の農民が引っ越してきた。こうして中国経済の躍進が始まった。私には、それは辛い試練を乗り越えた報酬、配当に思えた。

2000年、江沢民主席は「三つの代表」論を唱えて、民営企業家でも共産党に入党できる途を拓いた。「中国道」に入門してわずか数年の私は「民営企業の時代が来る」と信じた。①で取り上げた宮沢総理の懐疑論に全く思い至らなかったのは、そういう訳だ。