日本の企業は雇用を大事にする。それは悪いことではないが、総需要の縮小しているときに正社員の雇用を守るには、実質賃金を下げるしかない。これによって社内失業したゾンビ社員が多いことも労働生産性の上がらない原因である。

製造業の空洞化を逆転させるとき

最後の問題はグローバリゼーションである。これは1990年代から中国の世界市場への登場で始まり、急速に日本企業を飲み込んだ。特に黒田日銀が大量に供給したチープマネーが製造業の空洞化を促進し、製造業が海外移転してしまった。これも黒田前総裁が昭和の「輸出立国」の幻想を追い求めて円安誘導をやったことがきっかけだった。

結果的には輸出は増えず対外直接投資が増え、資源輸入額が増えてインフレになってしまった。おまけにエネルギー政策に無策だったため原発が運転できず、莫大な化石燃料を浪費して交易条件(輸出物価/輸入物価)が悪化した。

先進諸国の交易条件(小川製作所)

このような供給力の低下がインフレをまねくとともに雇用を悪化させ、実質賃金が低下した。円安の原因も日米金利差だけではなく、このような日本の国際競争力の低下を反映している。それはかつてイギリスが固定為替相場時代の1ポンド=900円から200円まで、ほとんど1/5になったのと似ている。

しかしサッチャー元首相は、その安くなったポンドを逆用し、「ビッグバン」で投資を呼び込んで金融業で復活した。それはかつての大英帝国とは比較すべくもないが、「英国病」からは立ち直った。日本がモデルとすべきなのは、イギリスではないか。

ニッセイ基礎研

それにはGDP比で北朝鮮にも劣る対内直接投資を増やす必要がある。外資が日本企業を買収しない大きな理由は、合併した企業の社内失業者を解雇できないことだから、これは解雇規制とも関連する。このままでは過保護のゾンビ企業にゾンビ人材があふれ、日本経済がゾンビになってしまう。