同じ時期に起こった韓国の金融危機は、IMFが介入して数年で解決した。財閥は解体され、大量の失業が出たが、多くのITベンチャーが起業して経済は再構築され、サムスンを中心とするIT産業が成長した。そして昨年、韓国の1人あたりGDPは日本を抜いた。

日本も1990年代が昭和のレガシーをリセットするチャンスだったが、幸か不幸かIMFの介入は必要なかったので、昭和にまだ執着している。その最たるものが戦時体制でできた社会保障制度だが、企業別労組でできた終身雇用や年功序列などの雇用慣行も、形骸化しているのに断ち切れない。強制的夫婦同姓という明治の制度さえ改正に抵抗する。

ゾンビ企業がゾンビ社員を生む

今年は、そういう戦後の繁栄を享受してきた団塊の世代が後期高齢者になり、引退するときだ。健康寿命は延びているので、まだしばらく選挙で投票できるだろうが、もう意思決定ができる地位にはいなくなる。数の上では高齢者が多数派だが、キャスティングボートを握るのは、高負担にあえいでいる現役世代である。

後期高齢者医療制度は、田中角栄の過剰な老人福祉を継承してきた昭和のレガシーである。これを解体して医療保険を民営化することが、昭和の社会保障制度を清算する一つのきっかけになろう。どこかの健保組合が「後期高齢者の支援金は払わない」と厚労省に不服審査請求を出せば、老人医療制度は大きく変わるかもしれない。

もう一つの昭和のレガシーは、戦時体制から受け継がれてきた雇用の総動員体制である。日本の労働生産性が異常に低い原因は、製造業で従業員をロックインするためにできた「正社員」をサービス業でも守っているため、雇用の流動性が低いことだ。それを非正規雇用で補完する構造が職場に正社員との格差を生んでいる。

これを断ち切るには、自民党総裁選でも話題になったように、解雇の金銭解決を法制化するしかないが、これは連合と厚労省が強硬に反対して動かない。このため経営の行き詰まった中小企業を政府がゼロゼロ融資のような優遇措置で延命し、ゾンビ企業が増えている。