今年のクリスマスもファストフードチェーン「ケンタッキーフライドチキン(KFC)」の店舗前には長い行列ができる光景がみられたが、実はクリスマスは大量のオリジナルチキンを調理しなければならないため出来上がりの商品クオリティにバラつきが生じやすい一方、正月は年間を通じて“もっとも美味しくなる”という話題が一部SNS上で注目されている。果たしてそのような傾向はあるものなのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。

 全国に1232店舗(2024年3月31日現在)を展開し、フライドチキン専門店チェーンとしては圧倒的な強さを誇るKFC。クリスマス料理の代名詞ともいえる存在だが、よく知られているように、かつて日本ではクリスマスにチキンを食べる習慣はなかったが、KFCがついた「嘘」がきっかけで現在の風習が根付いたという歴史がある。日本でKFCの1号店がオープンしたのは今から53年前の1970年11月、場所は愛知県名古屋市。2018年12月22日付「BUSINESS INSIDER」記事によれば、当時の店長・大河原毅氏がNHKの番組に出演した際、西洋にはクリスマスにフライドチキンを食べる習慣があるのかという質問に対し、「『はい』と答えました。嘘をついたのです」と発言。その後、KFCは毎年クリスマスキャンペーンを全国展開するようになったという。

 ちなみにアメリカやイギリスなどでクリスマスに習慣的に食べられているのは七面鳥(ターキー)であり、世界的に見るとクリスマスにチキンを食べるという日本の習慣は珍しいとされている。

 のちに日本ケンタッキー・フライド・チキン(現日本KFCホールディングス<HD>)社長に就任することになる大河原氏の発言だけに、意図的に嘘をついた背景が気になるところだが、日本KFCHDは16年12月24日付当サイト記事で次のように語っている。

「店舗近くのミッション系の幼稚園から、『フライドチキンを買ってパーティをしたい。サンタクロースに扮装してクリスマス会に来てもらえませんか?』とのご相談を受けました。そこで、サンタクロースに扮した店長が会場に入り、『メリークリスマス!』の掛け声と慣れない踊りを披露すると、場が盛り上がり、子供たちは大喜び。次第にいろいろな学校からご注文が入るようになりました。これにヒントを得た営業担当者が『クリスマスにはケンタッキー』を広くアピールしようと考えたことがはじまりです」

 KFC初のクリスマスキャンペーンは1974年12月1日に開始。以降、KFCは「クリスマスにはケンタッキー」というメッセージを広告などで展開し、毎年全店でクリスマスキャンペーンを実施している。今年は「濃厚ホワイトティラミス」や「オマール仕立ての特製ラザニア」などを含む「パーティバーレル」を2種、「クリスマスパック」を6種、取り揃えるほか、単品メニューとして「五穀味鶏 ローストレッグ」(1480円)、「五穀味鶏 胸肉ロースト」(1580円)を販売していた。ちなみに古いデータだが、KFCの2015年のクリスマス期間(12月23~25日)の総売上は54億9000万円にも上っていたという。

経験や熟練度、慣れによって差が発生

 クリスマスのKFC店舗では例年、長い行列と混雑が風物詩となっているが、大量のオリジナルチキンを油で揚げなければならないためクオリティ的にイマイチの状態で客に提供される場面が増えるという情報が、一部SNS上で話題となっている。また、正月はアルバイト従業員が減りマネジャークラスの社員などが調理する機会が増えるため、一年のうちでKFCでもっとも美味しく食べられるのは正月だというコメントも相次いでいる。実際にSNS上では元・現役店員によるものとみられる以下投稿があがっている。

<元KFC店員としてもこれは本当。26日よりもお正月派>

<バイト歴あるけど、12/31に油を換えて、元旦はバイトみんな休むので社員が揚げるから、元旦は美味しかった>

<クリスマスのチキンは本当に食べない方がいい予約でギリギリの数までチキン取ってる店舗だとかなり雑にあげてるから衣剥がれまくり>

 このような傾向が生じる可能性はあるものなのか。自身でも飲食店経営を手掛ける飲食プロデューサーで東京未来倶楽部(株)代表の江間正和氏はいう。

「十分にあり得ます。安定した味の提供のためには、『材料』『作り手』『設備(機材)』などの項目が大切です。KFCのような大手チェーンでしたら材料については問題ないでしょう。設備についても店舗で行う調理にもっとも適したものを導入・設置しているはずです。そして作り手については、できるだけ個人差が出ないようなメニュー構成を考え、設備を導入し、マニュアルにてオペレーションを一定化し、さらに研修や練習によりカバーしようとしますが、最終的な仕上げは人間が行うことですので、経験や熟練度、慣れによって、どうしても差は発生してしまいます。

 ちょっと慣れてきたばかりの学生バイトと、この道数年の熟練社員では味が変わってもおかしくありません。マニュアルに『5分揚げる』と書かれていたり、揚がったら自動的に食材が油から引き上げられるような設備があっても、そのときの調理個数や連続した設備の使用状況、油の状態など、さまざまな環境から判断して最適な方法をとるためには、慣れや経験が必要になるからです」

 また、外食チェーン関係者はいう。

「KFCのオリジナルチキンがもっとも美味しい状態で提供されるタイミングは明白で、平日か土日祝日かに関係なく開店直後の時間帯です。揚げ物は油の鮮度とキレイさが命であり、店舗にもよりますが大手ファストフードチェーンはフライヤーの油を入れ替えたばかりで使用回数が少ない状態で開店するので、必然的にオリジナルチキンの出来上がりの質が高くなります。素人でもわかるレベルで美味しく仕上がっているため、試しに1度、開店直後のKFCで注文して、すぐに店内で食べてみると、驚くと思います」