一方、アサド政権を治めてきたアラウィー派はイスラム教シーア派の流れをくむ小数宗派だ。主にシリアに居住している。この宗派の信仰は、イスラム教、キリスト教、古代宗教の要素を組み合わせたもので、9世紀にその起源を持つ。アラウィー派の教義や宗教儀式は、特定の男性信徒のみがアクセス可能であり、女性は儀式に参加できない。宗教的祝祭には、ペルシャの新年(ノウルーズ)、イスラム教のラマダン明けの祭り(イード・アル=フィトル)、キリスト教の祝祭などが含まれる。アラウィー派は1966年以降、シリアで政治的な影響力を持つようになった。この宗派の一部はシーア派イスラム教に接近している。なお、シリア内戦でイランが介入して、アサド政権を軍事支援したのは、イランがシーア派の盟主という繋がりがあるからだ。
次にドルーズ派だ。ドルーズ派の宗教は、11世紀初頭にシーア派のイスマイール派から派生した。ドルーズ派はシーア派と同様に、イマームが再臨し、地上に神の王国を築くと信じているが、スンニ派やシーア派とは異なり、輪廻転生を信じている。そのため、過激派イスラム主義者は、ドルーズ派の信仰を異端視している。世界中のドルーズ派信徒は約100万人とされ、その多くがシリア、イスラエル、ヨルダン、レバノン、そしてイスラエルが占領するゴラン高原に居住している。
シリアにはまた、ヤズィーディー派が存在する。ヤズィーディー派の信仰は、推定で約4000年の歴史を持つ一神教で、古代オリエントの宗教要素を取り入れている。この宗派には聖典がなく、信仰は口伝で受け継がれている。宗教的象徴の中心には、地上の神の代理者としての「クジャク天使」(メレク・タウス)の存在がある。その物語が堕天使のものと似ているため、ヤズィーディー派は誤って「悪魔崇拝者」と呼ばれることがある。ヤズィーディー派の信徒は主にイラク北部に住んでいるが、イラン、トルコ、シリアにもいる。ヤズィーディー派は、イスラム教の同胞からしばしば差別を受けている。特に2014年、過激派組織「イスラム国(IS)」がイラク北部を占拠した際、多くのヤズィーディー派信徒が迫害を受けた。