そんな違和感を抱く方も多いだろう。だが、もはやキリンは酒造メーカーではないのだ。
1980年に売上の「92.3%」を占めていたビールの比率は、現在「49%」と半分以下にまで低下(酒類。2023年度実績)。残りの半分超は、飲料事業、医療事業、ヘルスサイエンス事業などが占めている。
今のキリンは、ビール酵母の発酵で得たバイオテクノロジーを中核に、事業を多角化するコングロマリット(※)なのだ。
※分野の異なる業種や事業展開を行う複合企業のこと
コンフリクトなきコングロマリット通常、コングロマリットは、事業毎に異なる組織文化が醸成されるため、相乗効果(シナジー)が得られないことが多い。だが、キリンは例外のようだ。2001年に発売した缶チューハイ「氷結」が好例である。
氷結を開発したのはキリンビール本体ではない。「キリン・シーグラム株式会社(現キリンディスティラリー株式会社)」である。1972年に、キリンビールとシーグラムグループ(米)、シーバス・ブラザーズ(英)の3社合弁で設立されたキリンの子会社だ。当然、組織文化は異なる。
チューハイブームだった90年代後半。爆発的に売れていたサントリー「スーパーチューハイ」を打倒すべく、キリン・シーグラムが考えた新チューハイのコンセプトは以下のようなものだった。
焼酎を飲みなれた中高年ではなく、飲みなれていない若者や女性を取り込む そのために「微妙」な甘さを実現する
だが、当時のキリンには、焼酎の製造免許を持つ工場もノウハウも無かった。
「だったら、焼酎ではなくウォッカをベースにチューハイを作ってはどうだろう」
ウォッカなら、キリン・シーグラムが持つ御殿場蒸溜所が活用できる。未知の焼酎製造に取り組むより、時間も節約できるしリスクも低い。しかも、ウォッカは無味無臭。クセが無く飲みやすい。「微妙」な甘さの邪魔をしないはずだ。