■スワンプマン
1987年、アメリカの哲学者ドナルド・デイヴィッドソンが提示した思考実験。
「ある日、ある男が沼地を散歩していると、突然雷が彼に落ちた。この時、雷は同時に沼にも落ち、沼の分子構造を変化させたことで、瞬く間に落雷を受けた男と同じ身体組成を持つ人物が沼から生まれた。この“スワンプマン(沼男)”は、脳、記憶、振る舞いまで全て落雷を受けた男と同じだ。仕事に行って、同僚と話しても、誰も彼がスワンプマンだと気付かない」
問い:スワンプマンは落雷を受けた人物と同一の人物か?
デイヴィッドソンはNOと答える。物理的に同一で、誰も違いに気付かないとしても、スワンプマンと落雷を受けた男では因果的な歴史を共有していないため、同一ではあり得ないという。たとえば、スワンプマンが落雷を受けた男の友人たちを知っているとしても、スワンプマンは実際に彼らを過去に見たことがあるという事実を持たない。スワンプマンと落雷を受けた男は、それぞれが持つ個人的な歴史が異なるのだ。
一方で、物理的に同一の身体であれば、同一人物と見なす哲学者もいるようだ。さらに、アメリカの哲学者で認知科学者のダニエル・デネットはこの思考実験があまりにも現実離れしているため、意味を成さないとまで語っているという。
とはいえ、脳内情報のコンピューターへのアップロードやテレポーテーションといったものが夢物語ではなくなってきた現代においてはむしろ極めて意義深い思考実験と言うこともできるだろう。