埼玉県蕨市と川口市周辺に集住しているクルド人と現地住民との間の軋轢はSNSでも度々話題になっていますが、先日蕨駅前の外国人排斥デモに対してクルド人群衆の一人が「日本人●ね!」と叫んだという動画(ただし諸説あり)が出回っていて、さらに相互憎悪が募る結果になっています。

「アベマプライム」でも取り上げられていました(トップ画像は番組映像から)。

ただ、この番組↑、あまり背景情報とかをちゃんと取り込まずにテキトーに印象論をぶつけあって終わってしまったような感じになっていて、ちょっと良くない扱い方だったように思います。お互いに余計に不満がたまる感じで。

一方で、今月はじめにこの問題がNHKで取り上げられた時の内容が以下のウェブサイトにまとめられていますが、こっちの方は断然背景が深堀りされていて、SNSでの「右と左の罵りあい」から距離をおいて川口市の関係者がなんとか問題を解決しようと具体的に模索している姿が伝わってくるところがありました。

埼玉・川口市がクルド人めぐり国に異例の訴え なぜ?現場で何が?

ただ、このNHKの番組も、予備知識ゼロの状態からパッと読んだだけではよくわからない事が沢山ある感じなんですよね。

そもそも、この問題については、

・状況の細部を理解せずに「ガイジンどもを叩き出せ!」って脊髄反射する人たち

が問題をややこしくしているだけでなく、

・状況の細部を理解せずに「この差別主義者どもめ!レイシストを許すな!」と脊髄反射する人たち

…も、同じぐらい問題を余計に難しくしているところがある。

そういう両極端な情報の乱舞の中で、「実際どの程度の事が起きているのか」を知りたい普通の人はこの問題をどう考えて言いのか戸惑ってしまう事になっている。

というわけで今回は、SNSでの「よくある罵りあい」とは離れた客観的な視点での、この問題の冷静なまとめと、今後どうしていったらいいのかについての提案を書きます。

また、上記のNHKの番組に専門家として出演されていた一橋大学の橋本直子先生は僕の大変仲の良いお友達でして、番組終わってから二時間ぐらい個人的に色々と詳細なお話を聞く機会があったので、その話もします。

1. まずは「クルド人の特殊事情」を前提として知る事が大事

まず、この問題について多くの人が誤解しているのは、クルド人問題は他の外国人の場合とかなり違う事情があるということなんですね。

いわゆる正規の「在留資格」を持った人ではない人がかなり含まれていて、実態としての人数も把握しきれていない。

ちょっとあえて批判的な言い方をすると、査証免除措置(トルコ国籍者は観光ビザも不要)で来日したあと、そのまま勝手に居着いてしまって既成事実化し、「難民申請」をすることで「申請中」の宙ぶらりんの状態で長期間滞在して子供も産んで…という形になっているクルド人が多いってことなんですね。

そのあたり、川口市の他のメジャーな外国人集団である中国・韓国・ベトナムの人々とはかなり違う状況なんですよ。

クルド人問題について議論する時に、「この部分の話」を無視したままだと、例えば川口市長だったり川口市の議員さんだったりが言っていることが物凄く排外主義的に見えちゃうのが注意が必要で。

「正規の在留資格」じゃないから、就労許可がない人もかなりいるし、健康保険への加入も不可になってしまっている人も多く、実態として「制度の谷間」にいる人が沢山いる状態なんですね。

そこには他の外国人とは全然違う難しさがあって、そもそも正規の在留許可がなければ「住民票登録」もしてないからいったい何百人、何千人いるかも正確にはわからないし住民税も払っていない状態が続いている。

それでも市内で子供が生まれたら面倒を見なくちゃいけないし、公教育でも受け入れなくちゃいけないし、”無保険者”がかなりの数でいると考えられる中で病院でのトラブルも解決しないといけない川口市の担当者から見たら切実な問題なんですよ。

こういう”制度の谷間問題”に対して、川口市自体は自分たちのできる範囲でかなり頑張って小中学校で差別なく受け入れようと取り組んできた事実があると思います。

スマホ片手に「クルド人の人たち可哀想ぉ〜日本のレイシストどもなんか●ねばいいのに!」とかSNSで発言して、10分後にすっぱり忘れちゃえる人たちの目線で解決できる問題ではない。

このページのはじめに貼ったアベマの番組はそのあたりの細部の事情をあまり番組スタッフが理解しないまま討論していて、出演されていた川口市議の荻野さんの立場がかなり悪いような感じになっていて可哀想でした。

一方でNHKの番組の方は、番組のオファーをもらってから一橋大学の橋本先生がかなり必死に番組スタッフにレクチャーして、日本の難民認定制度の詳細や世界各国の実情をちゃんと理解してもらうことから始めたそうです。

こういう制度上の問題というのは非常にややこしくて、ある程度専門家寄りの人ですら油断していると年々行われる細部のアップデートについていけなくなってしまったりするらしい。