調査にあたっては1μmのシリカ粒子を光トラップによって1カ所に固定し、外部から電場を操作して振動させることで有効温度の制御を行う仕組みが用意されました。

有効温度は、粒子がどれだけ激しく振動するか(エネルギーが粒子にどの程度注入されるか)を示す指標で、実際の物理的温度に対応します。

簡単な言い方をすれば、粒子が激しく振動しているときは高温状態で、緩やかに振動しているときは低温状態を、それぞれ反映しているわけです。

そして高感度センサーを使用し、シリカ粒子の有効温度が上がる過程(加熱状態)と下がる過程(冷却状態)の両方で粒子の位置と動きを2万4000回にわたり記録しました。

これにより0.02秒ごとのシリカ粒子の振動状態が明らかになります。

粒子の位置と揺らぎを記録することは、熱力学における「微視的状態(microstate)」を直接観測することに相当します。

多数の粒子で構成される材料では、膨大な組み合わせの状態(微視的状態)が存在し、それをすべて記録することは事実上不可能です。

しかし研究では単一粒子を対象に繰り返し測定を行うことで、粒子が取りうる微視的状態の分布をマッピングし、これにより粒子がどのようにエネルギーやエントロピーを変化させるかを確率分布の形で可視化(見える化)できるようにしました。

ある意味で、シリカ粒子の震えかたによって温度を測る仕組みを作ったのです。

準備が整うと研究者たちは加熱または冷却が行われる際に、そのときにシリカ粒子がいくつの異なる状態を経るかを調べました。

もし加熱と冷却が共通プロセスを持つならば、加熱するときも冷却するときも「震えるシリカ粒子の温度計」は鑑合わせのような挙動をするでしょう。

あえて擬音をつかって表現すれば、加熱するときの震えかたが

「ブル➔ブルル➔ブルブル➔ブルルブルル➔ブルルンブンブン」

であるならば、冷却するときはその真逆の