どこが“クセスゴ”なのか。それはブータンが置かれた国土事情に起因する。ブータンの面積は九州とほぼ同じ約3万8,400平方キロメートル、そこに約80万人の国民が暮らしている。標高100メートル程度の低地から7,000メートルを超える高地まで存在し、平地はわずかで、生活や農業のほとんどが傾斜地で行われている。道路は斜面へ切れ込みを入れる形で作られていることが多く、路肩は土留めもされていないため、がけ崩れや崩落事故、谷底への自動車の転落事故も多発する過酷な環境だ。そのため、国家の主な収入源は、国土の高低差を生かした水力発電による周辺国への売電だ。

そんな国土の上に、サッカースタジアム建設に必要な面積とされる3.5ヘクタール(約3万5,000平方メートル)の平地を整備するのもひと苦労だ。

実際、メインスタンドは王室が使用する煌びやかな仏教の伝統建築を取り入れた屋根付きの貴賓席のみで、バックスタンドには背もたれ付きの座席があるものの、両ゴール裏席は石段があるだけの立見席。しかもスタジアムのすぐ外が土手となっており、そこには集合住宅もあるため、“タダ見し放題”の造りとなっている。

総工費2.23億ニュルタム(約4億円)をかけ、総天然芝で、FIFAが定める縦105メートル、横68メートルもクリアしている。しかし、ティンプーの市街地にあり、公園やテニスコートも併設されているため、サッカースタジアムというよりも市民の憩いの場となっているようだ。