量子力学の世界ではまず、古典物理に存在しなかった温度の上限を設定することが可能です。
たとえばスピン系と外部磁場を使う場合、通常の正の温度に該当するときには、スピンの方向は外部磁場とそろう方向(たとえば下向き)をした低エネルギー状態のものが多くの割合を占めています。
(※このときエネルギー状態の最大値は、全てのスピンが上向きの状態のときです)
この状態に対して共鳴を起こす電磁波を照射すると、スピンは磁場と反対向き(上向き)の高エネルギー状態に移行させることができます。
この操作を繰り返し照射することで、最終的にほとんどのスピンを高エネルギー状態に移行させ、エネルギー状態の分布を反転させることができます。
簡単に言えば、量子力学のスピンの概念を利用し、低エネルギーの粒子に電磁波を与えてほとんどを高エネルギーの粒子に変えてしまうという方法です。
他にも光格子を用いた方法では、まず原子を絶対零度に近い温度に冷却しておき、光格子の深さや形状を調節して、エネルギー順位の配置を制限します。
そこにレーザーや電場を用いてエネルギーを注入することで、エネルギーの高い状態が優先的に占有されるようにします。
たとえるなら、絶対零度付近に冷やした粒子たちに、量子力学的な手法を使って高エネルギー状態になりやすい状況を用意し、最後に衝撃をあたえて、高エネルギー粒子の割合を増やす方法と言えるでしょう。
これらの手法は、どちらも量子力学的な概念や操作を必要としており、古典物理では達成不可能なものとなっています。
負の温度の世界への扉を開くことは、単なる技術的なチャレンジではありません。
私たちのよく知る物質やあまり知らない物質を負の温度の世界に案内することで、予想もつかない物体の状態を引き起こすことが可能になるかもしれません。
そこで新たな研究では、量子力学の世界でも奇妙さが際立つ「幾何学的フラストレーション」という状態を、負の温度の世界に放り込むことにしました。